「中高層木造ビル」が拓く新たな地平 脱炭素と事業の両立を可能にする
中高層の純木造ビルをはじめ、建物への木材利用が増えている。森林資源を活用する事業は環境保全との親和性が高く、脱炭素化にも寄与する。国や自治体も木材利用の促進に力を入れている。 【フォトギャラリー】大林組の高層純木造耐火ビル「Port Plus」の写真はこちら
注目集める木造・木質化 環境以外の価値も
人口減少や少子高齢化を背景に新設住宅着工件数の減少が続く一方、商業ビルなど非住宅建物は老朽化により潜在的な建て替え需要がある。建設・不動産関連企業にとって、木造・木質化の建物は商機となる。 清水建設は10月22日、木材と鉄骨を組み合わせた地上12階建ての「木造ハイブリッド」構造の賃貸オフィスビル「(仮称)京橋第一生命ビルディング」(東京都中央区)の建方工事が最終段階に入ったと発表した。そのほか東京駅周辺では、東京海上ホールディングスなどが木造超高層ビルの建設計画を進めている。 矢野経済研究所によると、国内非住宅市場規模(工事費予定額ベース)はウッドショックやコロナ禍で落ち込んだ2021年度の5952億円から2025年度には7700億円に増加すると予想する。 建物の木造化や木質化が注目を集めている要因として、建設時に鉄骨、鉄筋コンクリートを使用する建物と比べ、二酸化炭素(CO2)を削減できる。また長期にわたり、建物自体がCO2を安定的に貯蔵する。さらに、木の伐採→利用→再植林の好循環を確立することで森林の持つCO2吸収機能を維持し、林業や地方経済の活性化にもつながる。 気温上昇などが及ぼす人の健康影響が懸念されている中、木材の温もりや香りの成分は、心理的・精神的に好影響を与えるとされている。鉄筋コンクリートの校舎と比べ、木造校舎で学ぶ教師や生徒は疲労感が少なく、インフルエンザによる学級閉鎖も少ないとの研究結果もある。 学校に加え、病院、公共施設、商業施設などで木材を使った建築物が身の回りでも少しずつ増えている。ただ数字でみると、その割合はまだ低い。 2023年の建築着工床面積からみると木造化率は44.7%。これを用途・階層別にみると、3階建てまでの低層住宅では木造率は80%を超えるが、4階建て以上の中高層建物は1%以下にとどまる(林野庁「令和5年度森林・林業白書」)。 このため国や自治体は補助金などのインセンティブを与え、建築物における木材利用の促進を促している。従来の公共建物の木材利用の促進を定めた法律は2021年に改定され、「都市(まち)の木造化促進法」(通称)となった。 改正は、木材利用の促進が、脱炭素社会の実現が目的であることを明示するとともに、公共建物の木造化を「呼び水」とし、その対象を一般建築物まで拡大したことがポイントだ。 国連環境計画(UNEP)の報告書”Global buildings and construction status”によると、建物の運用と建設から生じるCO2排出量の割合は2022年、世界全体の排出量の37%を占め、過去最高となった。建物内の電力使用に関する間接排出量に加え、セメント、鉄鋼、アルミニウムなどの建設資材の増加が要因と指摘している。