写真提供：大林組

世界的にみても厳しい日本の耐火基準は、5階～14階建ての建物の場合、2時間以上の耐火性能が必要となる。大林組は、シェルターからの技術協力を通じ、「2時間、3時間耐火」を可能にした3層構造の柱を主に使用している。 さらに国内建築では、耐火性と並んで耐震性も重視される。日本は世界のマグニチュード6.0以上の地震の約2割が起こっている地震多発国だ。伝統的な「貫」工法を活用するとともに、接合部分は「十字形の剛接合仕口ユニット」という独自の方法を採用した。これにより鉄骨や鉄筋コンクリート造と同等の耐震性能を確保し、震度7クラスの地震にも耐えられる設計となっているという。 また建物には大断面木材を作るためにLVL（単板積層材）が随所で使われている。LVLは薄いベニア板を同じ繊維方向に揃えて接合したもので、中大規模木造では特定の工場で板を複数接着する手法により大断面のものを製造している。 Port Plusでは、ビスなどで乾式固定した「つづり材」を活用することで効率的に大断面木材を製造し、コスト削減を実現した。この技術で、同社は特許を取得している。 同社営業総本部カーボンニュートラル・ウッドソリューション部の岡有部長は建物の総工費は非公開とした上で、鉄骨造や鉄筋コンクリート造と比べ割高で、「（現時点では）商業ベースに乗るコストではない」と話す。 ただ岡氏は、（1）脱炭素化への貢献、（2）従業員のウェルネス向上などの付加価値、（3）設計施工を通じ得られた技術的知見、（4）宣伝効果、などを総合的に評価すると、Port Plusを建設した意義は大きかったと振り返る。 建設資材が高騰する中、木造建築物のコストをさらに引き下げていくには、需要の裏付けが不可欠となる。岡氏は「木材利用増なくしてコスト低減はなく、コスト低減なくして木材利用増はない」とした上で、「付加価値をつけながら徐々に（木造建築を）増やしていくことが多くの関係者の共通認識となっている」と語る。 大林組は、その後も国内外で木造建築物の実績を着実に積み上げており、2025年4月に開幕する大阪・関西万博会場の象徴となる大屋根リングの建設に携わった。ただ、超高層純木造ビルの建設については、商業ベースに乗らないと考えているため、現時点では検討していないという。 同社は、「木材循環（Circular Timber Construction）」のコンセプトを掲げ、「川上」では植林、「川中」では木材加工・調達、「川下」では本業の建設に関与している。また、「川下の先」では、木くずなどを利用したバイオマス発電も実施している。 「川上」では効率的な植林をするため人工光を用いて苗木を栽培。「川中」では、連結子会社が電力会社と共に合弁会社を北海道釧路市に設立し、2027年4月をめどに国内最大級の製材工場を立ち上げる計画を発表している。需要に応える木材の供給体制を強化するとともに、脱炭素化をさらに推進していく方針だ。