【もうすぐ大改造される日本の名建築】林昌二、山下和正(日建設計)〈武蔵野公会堂〉
改修の設計者を決めるにあたっては、簡易な提案書とヒアリングによる公募型プロポーザルが実施された。多くの建築家が参加するなか、最優秀提案者に選ばれたのは、小堀哲夫が率いる小堀哲夫建築設計事務所である。小堀は「ROKI Global Innovation Center -ROGIC-」で、2016年度JIA日本建築大賞や2017年度日本建築学会賞(作品)を受賞し、その後もオフィス、学校、旅館など、幅広い分野の建物を手がけて注目されている建築家だ。 小堀による改修案は、「新しさと懐かしさを受け入れるゲートとしての新武蔵野公会堂」をコンセプトとしたもの。会議室棟は、コアや全体のシルエットを残しながら、床や壁の多くを撤去して耐震性能を上げる。2階の床は「アウターリビング」として、開放されることになる。ホール棟は既存の形状を活かしつつも設備を一新。リハーサル室兼用の会議室を地下に設け、客席は竣工当初の平土間形式と改修後のワンスロープ形式を組み合わせたものにするという。
現状の建物についての解説に戻ろう。会議室棟は、階段室を内部に収める2本コアが、全体の構造を受け持っている。こうした構造の形式をツインコアと呼ぶ。日建設計の林昌二は、この形式を好んだ。〈ポーラ五反田ビル〉(1971年)や〈中野サンプラザ〉(1973年)など、手がけた多くの建物でこれを採用している。 2階と3階には、コアに挟まれて会議室が置かれ、両脇には和室(2階)と特別会議室(3階)が設けられている。会議室の壁には、成形合板を曲げてつくった棚が付く。これは天童木工によるものだろう。 注目したいのは、廊下や特別会議室の壁面で、泡が集まったような独特の表情を見せている。壁のコンクリートパネルを製造する際、柔らかいビニールのような材料を型枠に使ったのだろうか。ほかでは見たことがない仕上げである。
屋上へも上がらせてもらう。現在は開放されていないが、竣工時の写真を見ると、ベンチやスツールが置かれている。ル・コルビュジエは近代建築5原則の一つとして屋上庭園を提唱したが、ここもそうした使い方が想定されていたようだ。 コアの南側に回ると、井の頭公園を望む景色の良い場所となっていた。天気のいい日は富士山もきれいに見えるそうだ。ここは改修後も「井の頭テラス」として残されることとなっている。