【もうすぐ大改造される日本の名建築】林昌二、山下和正(日建設計)〈武蔵野公会堂〉
ホールは半地下で、1階から地下1階へと客席のスロープが降りていく。両脇にバルコニー席が設けられていて、カーテンを開けると、外側はガラス張りになっている。 並んだ筒を見上げたような天井の形は、逆シリンダーシェルの構造が内側に現れたもの。表面にはスギ板が張られて、音響反射板の役割も果たす。 客席の上のペンダント照明は、ランダムな位置に吊られていて、星空のようにも見える。設計の際には、おはじきを散らして配置を決めたという逸話が伝わっている。切れたままの電球もあった。やはり、交換は難しいということか。 緞帳には微妙にずれた同心円が描かれている。これはケヤキの幹の切断面を写真に撮って拡大したもの。ケヤキは武蔵野市を象徴する樹木である。
ホールは350席を擁する。使われ方としては、音楽系の催しが多い。電気音響を用いたジャズやロックの演奏は少なく、ピアノや合唱など、生音による音楽の発表会が主だという。そのほか、各種式典や講演会などの利用がある。落語の公演も継続して行われている。 利用率のデータを見ると、新型コロナウィルス感染症の影響で令和2(2020)年度にはに落ちたが、令和5(2023)年度にはまで回復している。 客席は緩やかなワンスロープの固定席となっているが、竣工時の建築雑誌を見ると、当初は後ろ半分が急傾斜の固定席で、前の半分が平土間だった。平土間に椅子を並べて客席として使うこともできるし、テーブルを囲む公開会議のような使い方もできる。多目的に対応した設計となっていた。
令和2年度から3年度にかけて、建物の劣化状況が調査された。その結果、コンクリートの強度に問題は発生していなかった。しかし屋上の防水、壁面の塗装、スチール製の建具など、各所で経年劣化が進んでおり、給排水管などの設備については更新が必要となっていた。 ホール関係では防音性能が不足し、映像・音響設備も旧式で使い勝手が悪い。リハーサル室や楽屋が足りず、客席も狭いと不満が出ている。車椅子使用者への対応にも難がある。 また、これは仕方がないことなのだが、火災安全、バリアフリー、環境配慮など、様々な面から既存不適格(建設時には法令に合っていたが、現行の法令には合っていない状態)の箇所が、建物全体に存在している。 これらの課題を解消することが急務とされた。その一方で、〈武蔵野公会堂〉が立地する吉祥寺駅南口では、駅前広場を含む整備事業が将来計画として検討されており、公会堂の全面建て替えを行うと、今後の計画に制約をかけることにもなりかねない。 そこで施設更新の方針として採られたのが、改修工事を行って、使用期間を20年程度延ばすという道だった。