〈パリ五輪〉7歳での“代役”ダンスバトルデビューから世界トップレベルに。ブレイキン日本代表・Shigekix「好きなブレイキンだけ頑張って、学校の勉強をおろそかにするわけにはいかなかった」
“代役”からデビューしたダンスバトル。「最初は何もできなかった」
ブレイキンの醍醐味は、ダンスバトルにある。DJのかける音楽に合わせ、日頃の練習で磨いた技やダンスを披露する。 まさにB-Boyにとっての晴れ舞台がダンスバトルと言えるが、Shigekixはブレイキンを始めてまだ間もない7歳でバトルデビューを果たしている。 「当時、大阪で開催されていた『グダグダナイト』というイベントで、2on2のキッズバトルに出ました。その経緯なんですが、とある2人組チームのキッズのひとりがバトルの緊張やたくさんの観衆が見ている怖さから急に泣き出しちゃって。とても踊れるような状態ではなく、その代役を探していたところ、姉が自分を指差して『ここに踊れる人います』と言ったんです。 もちろん最初は勝手がわからず、覚えたての技をちょっと披露しただけでした。でも、そこから少しずつ、バトルを意識して練習するようになりました」 バトルに出場することを視野に入れたことで、練習の内容がそれまでよりも濃くなったとShigekixは話す。 今でこそ世界トップレベルの腕前を持つB-Boyとして、数々の功績を打ち立てているが、バトルに出始めたころは予選落ちや初戦敗退もたびたび経験した。 「もちろん最初から勝てたわけではなく、1回戦で負けることもよくありました。だけど、何度もバトルに出ていくうちに、だんだん1回戦は突破することができ、あるときはベスト16まで残れたなど、本当にステップバイステップで少しずつ実力がついていきましたね。そしてやはり、成果が出ると達成感につながって、『もっと上を目指したい』と思うようになったんです」
学業も頑張らないと、好きなブレイキンをさせてもらえない
大阪府内で開催される初心者向けの大会で優勝できるようになると、その次は関西圏で行われるバトルに出場、さらには広島や北陸といった遠方のバトルにも参戦するなど、Shigekixはどんどん活動範囲を広げていく。 その勢いは国内にとどまらず、小学生のうちから海外の大会にも参加するようになる。中学校からはひとりで海外へ渡航し、B-Boyとしての活動を本格化。11歳のときに出場したフランスの世界大会ではキッズ部門で優勝を勝ち取り、以降もさまざまな世界大会のキッズ部門で優勝を果たしていく。 さらには、一般のソロ部門でも1位の座に輝くなど、名実ともに才能が開花し、一気に世界から注目されるB-Boyとして名を馳せるようになった。 その一方、親からは「どんなにブレイキンで有名になっていい成績を残しても、周りの学生と同じように勉強もしっかり頑張りなさい」と言われており、学業にも精を出していた。海外の大会へ出る際も、飛行機の移動中やホテルの滞在中は勉強を欠かさなかった。 「テストでいい点を取らないと、好きなブレイキンをさせてもらえない」 こうした思いを胸に、学業とB-Boyを両立させてきたと当時を振り返る。 「学校の勉強をおろそかにして好きなブレイキンだけ頑張る。これだと道理が通らないわけで、親からも『責任感を持て』とよく言われていました。文武両道を目指すというか、“自分が特別扱いされている”という勘違いをせず、人間として成長してもらいたいという親心があったんだと思います」 これまでShigekixさんは何十回も海外の大会へ招待されてきたが、幸いにも資金の工面を心配する必要はなかった。世界中のブレイキンバトルの大会主催者が渡航費や滞在費を負担してくれたうえでの招待選手として招かれることがほとんどだったからだ。 だが、「招待してもらう以上、旅行気分で浮かれている場合ではなく、結果にコミットすることを念頭に置いて、主催者の期待に応えようと必死だった」と吐露する。 海外で活躍するB-Boyの精鋭たちと交流を持つことは、そこでしか感じられないバイブス(踊るときのノリ)や自己表現などを学ぶ絶好のチャンスだった。日本に帰国してからも、海外で得たアイデアやインスピレーションをヒントに実践することを繰り返した。 こうして現在のオリジナリティあふれるダンススタイルが確立されていったのだ。
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