江東区、50年来の悲願実現! 有楽町線延伸・工事着手へ。なぜ延伸は実現した?
■ 構想から半世紀以上。ようやくかなった有楽町線延伸 1968年に計画が示され、早や50年。ついに、有楽町線 豊洲駅~住吉駅間(約5.2km)の延伸工事の着手が決定した。 【画像】有楽町線 延伸の概要(江東区資料より) 「豊住線」の通称からも分かるように、この路線は東京メトロ有楽町線 豊洲駅から分岐し、都営新宿線・東京メトロ半蔵門線が乗り入れる住吉駅にいたる。江東区南部の湾岸地区から、区の中心部がある深川エリアを南北に貫く路線だ。 これまで、このエリアに乗り入れていた東西線・半蔵門線(東京メトロ)はほとんど東西方向であり、南北の移動手段は「東22系統」などの都営バス路線頼みであった。「東西移動は簡単、南北移動は困難」という課題を一挙に解決できる有楽町線の延伸に向けて、江東区は半世紀にわたる建設推進運動を展開。さらに国や都の動きに先がけて、独自で「15年間で110億円の積立基金」を準備していたという。 また、江東区が東京都中央卸売市場(現在の「豊洲市場」)移転を受け入れる条件として地下鉄建設を提示していたこともあり、2019年には山崎孝明区長(当時)が「地下鉄建設に進展がないのはだまし打ち」として、特に関係ないゴミ処理場の協議拒否を示唆するなど、「建設推進の話し合い」「陳情」の域を越える強硬な動きを見せたこともある。 なぜ江東区は、ここまで強く有楽町線延伸を求めていたのか。そして、延伸によってどのような効果があるのか。背景と、今後の展望を探っていこう。 ■ 江東区の課題「湾岸・深川の分断」 ひとくちに「江東区」と言っても、区役所のある「深川地区」、その東側の「城東地区」、そして南側の「湾岸地区」と3つに分かれる。有楽町線の延伸は、これまで移動が不便であった区内の「南北軸」移動を劇的に改善できるからこそ、江東区は建設を熱望していたのだ。 現状では、湾岸地区の中心部である豊洲から深川方面への移動は、都営バスなら1時間3~4本の陽12-2系統(豊洲駅前~東陽町駅前)のみ。さらに北側の住吉方面には、都営バス・東22系統などへの乗り換えが必要だ。これが鉄道移動だと、東西線や半蔵門線で西に移動、大江戸線で月島に出て、有楽町線で豊洲という「コ」の字形の移動を余儀なくされる。おなじ江東区内なのに、南北の移動手段はあまりにも貧弱だ。 昭和30年代~40年代までの豊洲は工場街や荒れ地が目立ち、区役所への用事以外で往来の必要もなかった。しかし今や、豊洲はタワーマンションが林立する街へ変貌をとげた。かつオフィス街の形成によって、通勤・通学で行き来する人々も増えている。 また同時に、江東区は、古い建物が多い深川地区の防災化・再開発の必要性に迫られている。豊洲地区・深川地区が鉄道でつながれば、同じ区内で「働くなら豊洲・住むなら深川」といった流れを作り、深川地区の再開発につなげることもできるだろう。何より、国内トップクラスの急成長を続ける湾岸エリアのにぎわいを、おなじ区内で至近距離にある深川・北砂が取り込まないという手はない。 有楽町線の延伸は、単に「鉄道ができたから往来が増える」といったメリットに留まらない二重・三重の効果を、江東区全体にもたらす。たった5km少々の地下鉄延伸を、江東区が強く求めていた理由が、お分かりいただけるだろうか。 ■ 有楽町線延伸エリアで、続々と進む再開発! 新しく有楽町線の沿線となる地域の、再開発の状況を見てみよう。 まず枝川地区では、「水辺に囲まれ、安らぎとにぎわいが調和する環境推進拠点」の整備に向けた話し合いが進んでいる。防災化を兼ねた街づくりと新駅の設置で、宅地としての需要は一挙に向上するだろう。 現状ではこの地区は「豊洲駅から徒歩15~20分」であり、なかには、それでも「豊洲」と銘打ってマンションを売り出している。このエリアに駅ができれば、すでに発展の余地がない豊洲のバックアップとなるだけでなく、すでにある「グランシティ東京イースト3」「ザ・サウスキャナルレジデンス」などの高層住宅の資産価値も変わってくるかもしれない。 江東区議会の議事録を見る限り、ほかに千石、住吉が、再開発を見込んだ「まちづくり協議会」設置を目指している。ほか近隣では亀戸、門前仲町、西大島などでも再開発が検討されており、有楽町線の延伸具体化とともに、動きが活発になっていくだろう。 ■ 有楽町線延伸、実は「東京メトロ」「東京都」にもメリットあり! 有楽町線 豊洲駅~住吉駅間の延伸で恩恵を受けるのは、江東区だけではない。 東京メトロにとっては、東陽町駅から南北移動の流れが発生すれば、最混雑区間(東西線 木場駅~門前仲町駅間。ざっくり「東陽町から都心部」)の混雑率を20%ほど軽減できるというメリットがある。また利用者にとっても、災害や人身事故などで周辺の鉄道が運休となった際に、代替ルートをいくつも選択できるようになるだろう。 「区の南北軸」「再開発・防災化の起爆剤」「既存路線の混雑緩和」。有楽町線の延伸区間は1日30万人の利用が見込まれているだけあって、確かにメリットが大きい。だからこそ、社会的効果も含めた建設のコスパ(費用対効果)を測る「費用便益比(B/C。1以上が「建設の効果がある」と見なされる)」の試算で「30年間で3.03、景気後退による都心離れが起きても2.6」という試算が出ている。つまり、建設費用の2倍、3倍の効果がある」と見なされているのだ。 ※費用便益比:経済効果などの便益/建設費用。1以上が「建設の効果がある」と見なされる。数値は2019年 国交省資料「東京圏における国際競争力強化に資する鉄道ネットワークに関する調査」より ■ 現時点で「半蔵門線直通」「和光市以西直通」はナシ+新木場方面は減便? 今後の課題があるとすれば、現状では半蔵門線・東武伊勢崎線などへの直通が予定されておらず、「住吉止まり」であることだろう。 有楽町線の延伸区間は、半蔵門線や東武伊勢崎線からの直通による都心へのダブルルート化、さらに豊洲での「ゆりかもめ」乗り換えによる新しい移動経路として期待されている。しかし直通しないとなると、東武沿線(東京都・埼玉県東部)からは住吉での乗り換えが必要となり、用途は限定される(2024年12月時点。今後協議により変更の可能性あり)。 ほか、湾岸地区でのもう一つの検討課題「臨海地下鉄」(東京駅~勝どき・晴海~有明)も10年、20年先の話で、検討されている「つくばエクスプレス直通」も、まだ具体的な話し合いは進んでいない。「埼玉県東部⇔お台場・湾岸」のアクセス改善は、まだ先の話になりそうだ。 江東区は、長らく待たされた「有楽町線延伸」決定に沸き返っている。ただ今回はあくまでも「工事着手」(工事準備の開始)であり、実際に地下にシールドマシンが入って掘削を行なったり、駅を建設したり、という作業は先の話だ。 例えば、2023年3月に開業した東急・相鉄直通線 新横浜駅の場合は、2013年2月に工事着手→2015年2月に掘削開始→2019年にコンクリート躯体が完成→2021年にレールを搬入→2022年5月に架線を設置、年末に習熟運転を開始……地下鉄の建設が、いかに大掛かりなものかが伺える。 この工事期間を経て、豊洲駅~住吉駅間が開業すれば、「1時間あたり日中で約8本、朝のピーク時で約12本」「住吉駅始発・豊洲駅から都心・和光市方面への直通列車」が走り出すのは、現時点では「2030年代半ば」の予定だ。新しい地下鉄路線や駅の誕生を、楽しみに待ちたい。
トラベル Watch,宮武和多哉