「もっと誇りに思ってほしい」─自分の“正体”を子供にどう伝えた? レイザーラモンHG夫妻の答え
驚きの“ノーガード戦法”の理由を、「うちは、芸能人の友達とか結構家に来てたんで、そのお子さんたちともよく遊んでた。親はみんなテレビに出てるものだと思ってたみたいで」と説明してくれる杏奈さん。 しかし、いまひとつ筆者のモヤモヤは晴れない。 夫婦の語り口が一貫して、“隠せない”ではなく“隠さない”だったからだが、 「普通、世の中の人間は一発屋にもなれない。頑張ってもなれないことを実現した自覚というか、もっと誇ってほしい。尊敬の念しかないですね」 という彼女の胸の内を知り、ようやく合点がいく。 ……はなから弱点と思っていないのだから、“ガード”など必要ない。
夫へのあふれるリスペクトは、杏奈さんが芸能人だった過去と無関係ではなかろう。 「私は全然売れなくて。“Z級”のグラビアタレントでした!」と振り返る彼女に、「“Z”までいくと、逆にすごい感じになるから!」とツッコむHG。 “あ・うんの呼吸”が心地よいが、2009年、プロレス参戦中に大けがを負い休業を余儀なくされた夫を、「じゃあ、今度は私が働くね!」と“あ・うん”で支えたのは、当時主婦だった杏奈さんである。 「 “HGの嫁”っていう肩書がなかったら、たぶん(起業の)スタート地点にも立てなかった」と謙遜するも、夫の入院翌日から仕事を探し始め、石鹸やスパッツのプロデュースで大成功。 ……間違いなく、“Z級”だ。
貴族の“お披露目パーティー”開催?
いまだ長女(小3)に正体を伏せているとため息をつく筆者に、「お披露目パーティーとかどうですか?」と口火を切ったのは杏奈さん。 いやいや、パーティーなど無理、招く相手もいないと愛想笑いで返すと、「マジで俺らも行くよ! めっちゃ盛り上げるし!」「っていうか、ウチでやって?」と夫婦そろってどうやら本気……そのまぶしさに、再び目を背けた。
失礼ながら、筆者にはあまり参考にならぬ2人の子育て。 下手にまねをすれば、太陽を目指したイカロスのごとく、翼を焼かれ、地面に激突するのがオチである。 ただ一方で、「“ハードゲイ”をキッカケに知り合ったLGBTの人達との交友関係は今でも広がっていて、もう当たり前になってる。そういう環境があるのは、息子や娘にとっても良いことなのかな」と顔をほころばせるHGを見ると、こんなふうにも思うのだ。 大ブレーク、一発屋、ハードゲイ、ホットガイ、漫才、TikTok等々……彼ほど子供たちが“多様性”を学ぶのにうってつけのパパはいまいと。 「仕事のモチベーションにもつながるよ!」と“お披露目”の効能を説くHG夫妻に、(そろそろ潮時かも……)と心が動かぬでもない。少なくとも、「パパってひげだんしゃくっていうんでしょ?」と詰め寄られ、「……違うよ?」と退けた際の、つまらなさそうな長女の顔を拝まなくとも済む。 「“ホットガイ”は無理だが、“ハタラキガイ”はありそうだ」という本稿の締めを、「なんかダサくない?」とわが子にイジられる……それもまあ、悪くない。 --- 山田ルイ53世 お笑いコンビ・髭男爵のツッコミ担当。「新潮45」で連載した「一発屋芸人列伝」が、「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞 作品賞」を受賞。近著は『パパが貴族』(双葉社)。