「お金は社会に還元して死ぬ」――「暴走族」安藤忠雄79歳、規格外の人生
95年には建築界のノーベル賞ともいわれるプリツカー賞を受賞。大阪を拠点としながら、世界各国で活動する。どこへ行こうとも、安藤は大阪弁だ。U2のボノ、ジョルジオ・アルマーニ、ダミアン・ハーストなど、クライアントとは仕事を超えた信頼関係を築いているが、英語を話さない。 「私は日本語だけですから、相手は気の毒ですよね。それでもうまくやっていけているのは、安藤忠雄建築研究所というチームがあるから。この出来の悪い、変わった人間をサポートするのは大変ですよ。若手なんかは、親方の日本語は、英語より難しいと思っているでしょうね。チームがなかったら、仕事は前に進みません。一人では何もできないんですよ。スタッフだけでなく、クライアント、建設会社、大工さん、左官屋さん……みんなで一緒につくっているという気持ちを忘れないようにしないと」
延期となった東京オリンピックをどう見ているのか。「64年から今日まで、日本は経済発展を至上の目的として走り続けてきました。その結果としてのオリンピックだったんでしょうけども、今、コロナ禍で挫折しています。どういう形でできるのか。84年のロサンゼルス・オリンピックの頃から商業五輪の傾向が強まり、それが肥大化して、開催国は疲弊しています。もう一度原点に立ち返って、精神と肉体をぶつけ合う美しい祭典を目指したら、また新しい世界が開けるのではないか。このまま惰性で押し進むのでは難しい」
お金は冥土へ持っていくものではない
安藤は「お金は役に立たない」と考えている。 「私は、仕事で得た利益はできる限り社会に還元して死にたいと思っています。東大寺の南大門は、重源が日本じゅう行脚して集めたお金でつくられた。お金持ちの社長さんには『(稼いだお金を)霊柩車に載せたい』という人もいますが、『載せてどうするんだ』と。お金は、冥土へ持っていくものではないと思うんです」 今年7月、大阪・中之島で安藤が設計した児童向け図書館「こども本の森 中之島」が開館した。建設地は大阪市が用意、安藤が建設費を負担して、民間からの寄付金で運営する。