「お金は社会に還元して死ぬ」――「暴走族」安藤忠雄79歳、規格外の人生
「連戦連敗」の国際コンペ
「住吉の長屋」を「勇気がある」とたたえ、安藤に美術館の設計を頼んだのが、元サントリー代表取締役会長の佐治敬三だ。大規模な設計の経験がなかった安藤は、「失敗してもええから、全力でやれ」と佐治に激励され、大阪・天保山にサントリーミュージアム(現大阪文化館・天保山)を設計。公共の建築プロジェクトへ進出する端緒となった。 以降、多くの美術館を設計するが、とりわけ特徴的な試みが「直島」だ。ベネッセの福武總一郎による、直島を丸ごと芸術の島にするプロジェクト。ミュージアムや宿泊施設を擁するベネッセハウス、建物全体を地中に埋め込んだ地中美術館、古民家を改築したANDO MUSEUMなど、数々の安藤建築が島に点在する。
「福武さんが『直島を芸術の島にしたい』とおっしゃったのはもう33年前です。直島は当時荒廃していて、“はげ山”の状態でした。アクセスが船しかないような不便な立地でしたから、人は来ないと言ったんですけど、『絶対来るようにするから一緒にやろう』と。あの人の大胆で自由な発想力と勇気、その持続力に、私は感服しております」 周辺の緑化、ランドスケープの整備とあわせて建築を設計。福武は現代美術家に声を掛け、草間彌生、李禹煥(リ・ウーファン)、ウォルター・デ・マリア、ジェームズ・タレルなど、さまざまな作家が参加。直島にしかないユニークなアート作品が数多く生まれた。 「3万人、7万人、10万人と来島者が増えるうちに、初めは遠巻きに見ているだけだった島の人たちも目が輝いてきた。『喫茶店しよう』とか『うどん屋しようか』とか。海を見て飲むコーヒーと、町の中で飲むコーヒーは違うんですよね。今では年間70万人ぐらい来るんですよ」
依頼を受けるだけでなく、数々の国際建築コンペに挑戦するが、「連戦連敗」だと安藤は言う。 「勝った人のアイデアを見たら、ほう、ここまで考えたかというのがありますね。負けたほうが勉強になります。あんまり勝ちませんから、ちょうどいいんじゃないかとも思っています」