「お金は社会に還元して死ぬ」――「暴走族」安藤忠雄79歳、規格外の人生
住み手に覚悟がいる家
インテリア設計事務所など、さまざまなアルバイトをこなしながら、2級建築士、1級建築士の試験に一発合格。高校卒業から10年が経った69年、事務所を設立する。28歳だった。仕事がない時には、頼まれもしないのに他人の土地で設計プランを練り、提案したこともあった。
安藤の名を広めたのは、76年、大阪市住吉区につくった「住吉の長屋」だ。これで日本建築学会作品賞を受賞する。三軒長屋の真ん中の1軒を切り取り、鉄筋コンクリート造りのコートハウスに置き換えた住宅。住宅中央の中庭には屋根がなく、例えば雨の日、寝室から台所へ移動しようと思ったら傘がいる。 「真ん中に自然が入ってくる。いいですよ。だけど、暑いし寒いし、雨も入る。不便ですよ。でも、住みやすいか住みにくいかは、住み手次第。『住吉』の施主はもう45年、そのまま住んでおられますよ。中庭から天を仰いで、いい空やなと。幸せを自分で見つけている。自分なりの価値観でつくり上げていくのが家なんですよ」
兵庫県の海のそばで、4メートル四方の小さい家の設計を頼まれたことがある。安藤は4階建てにして、最上階にリビングを置いた。リビングから淡路島周辺の海が一望できる。 「借景ですね。まるで瀬戸内海が自分だけの庭のように思える。その代わりトイレに行こうと思ったら4階から1階まで降りなくちゃいけない。アスレチックだと思ったらいいんですが。住み手には覚悟がいります」
「安藤さんの建築は不便だ、使いにくいとよく言われます。便利な建築がいいわけではなく、不便が悪いわけではないと思っていますが、総攻撃を受けております。時々『安藤さんはどういう家に住んでおられるんですか』と聞かれるんです。『いや、私はマンション』。マンションいいですよ、便利です。その代わり、ひとっつも心の中に残らない。東京の3LDKと大阪の3LDKは一緒ですから」
設計において、あらゆる制約を想像力で越えるのが醍醐味だという。 「建築というのは、制約だらけなんですよ。法律、予算、敷地、クライアント……。だから制約がなく、自由につくってくれというのはないんです。制約を乗り越えていくのが面白い」