なぜ高校サッカー決勝進出を決めた青森山田エース松木玖生はスーパーゴールにも笑わなかったのか…名将に捧げた鎮魂ゴール
無名だった国見を戦後最多タイの6度の選手権優勝を誇る全国屈指の強豪へ育て上げ、高校サッカーの発展に大きく寄与した名将への感謝の思いを込めて、令和のいまを生きる高校生を代表する形で、両チームの選手が左腕に巻いていた喪章を掲げた。 松木が言うように、直接的な接点はない。ただ、ベンチで指揮を執る小嶺さんの姿を間近で見た記憶はいまも鮮明に焼きついている。昨夏に福井県で開催されたインターハイ。青森山田は1回戦で、小嶺さんが率いる長崎総合科学大付属と対戦した。 結果は3-0の快勝。相手に一本もシュートを打たせなかった試合後に、選手たちには関係ないことと断りを入れた上で、黒田剛監督は「感慨深いものがある」と語っている。小嶺さんが率いるチームと通算3度目の対戦で初勝利をあげたからだ。 過去2度はともに選手権だった。最初は2002年度の第81回大会3回戦で、国見に1-3で敗れた。決勝で市立船橋(千葉)敗れ、3連覇を阻止された国見は続く第82回大会で再び戴冠。この間に戦後最長となる4大会連続の決勝進出をマークしている。 次は小嶺さんが長崎総合科学大付属を率いた2017年度の第96回大会。3回戦で0-1と苦杯をなめた青森山田は連覇を阻止されたが、続く第97回大会で2度目の優勝を果たし、松木が入学した第98回大会からは連続して準優勝している。 迎えた松木にとっての最後の1年。最終的に30得点、3失点と群を抜く強さでインターハイを16年ぶりに制した青森山田は、Jクラブのユースチームも加わる最高峰のプレミアリーグEASTでも優勝。三冠を目指して選手権の舞台に乗り込んだ。 しかし、大本命にあげられながら前半の入りが悪く、初戦だった大社(島根)との2回戦から苦戦を強いられた。先制されながら自身がPKを決めて追いつき、後半に逆転した4日の東山(京都)との準々決勝後に、松木は努めて前を向いている。 「こういう試合がないと絶対に気の緩みが出て、隙を突かれて負けてしまう。今大会は全体的に堅さが見られるけど、普段通りやれば自分たちは必ず勝てると思っている」 迎えた高川学園との準決勝。3日の間にさまざまな形で重ねた話し合いのなかで、追われる立場を意識するあまりに対戦相手の情報を頭に詰め込みすぎ、結果として青森山田らしさが失われていたと気がついた。原点へ回帰したと松木が振り返る。 「今回も相手の分析はしましたが、それに偏らずに自分たちのサッカーをしようと。インターハイやプレミアリーグでできていたことが、選手権でできないはずがないので」 松木が力を込めた青森山田らしさとは何か。1995年から指揮を執る黒田監督は、松木を中心にすえたチームを「何でもできるサッカーを志向してきた」と表現する。 「ハードワークもそうだし、相手に対するハイプレッシャーもそう。攻撃ではリスタートからでも、ボールをつなぎながらでも相手のバイタルを攻略していく。それをまずきちんとやろうと入ったことで肩の荷が下りて伸び伸びとプレーできたんじゃないかと」