福祉施設に増えるヤギ なぜ? 「なごみ」と「面倒くささ」で予想外の効果 #老いる社会
ヤギは福祉の世界とは畑違いの人も呼び寄せた。その一人が大村文彩(ふみさ)さん(26)だ。彼女は東北工大のサークルでヤギを飼う「ヤギ部長」だったが、現在はアンダンチの運営会社に就職し、障害者の就労支援施設で生活支援員として働いている。 「こんな福祉施設があるなんて以前は全く知らなかった。ヤギのつながりがなかったら就職していなかったでしょうね」 アンダンチがある場所は、仙台湾沿岸から4キロほど西に入った地域。東日本大震災の後、震災で家を失った人たちの集団移転地域として指定された場所だ。福井さんは言う。 「震災時、ここに津波は来なかったけれども、集団移転先として間接的には『まちづくり』が必要になった地域。そもそも核家族が増えたから、みんなつながりを求めている。今、僕らとまちとの距離を縮めてくれる存在がヤギなんじゃないかな」
少子高齢化が進むなか、福祉施設と地域住民を交えた「自然な支え合い」は「地域共生ケア」として国が掲げる方針にもなっている。ヤギとともに過ごす施設は、そんな取り組みの一つの形になりつつある。 いしいさん家も、アンダンチも「ヤギが取り持つ縁」が呼び水になり、施設内に足を運ぶ人の多様性がぐんと増したという。ヤギがつないだ「ごちゃまぜ」の人の輪は、思わぬ縁を各地にもたらしながら、今後さらなる広がりを見せるかもしれない。
---------- 古川雅子(ふるかわ・まさこ) ジャーナリスト。栃木県出身。上智大学文学部卒業。「いのち」に向き合う人々をテーマとし、病や障がいの当事者、医療・介護の従事者、イノベーターたちの姿を追う。「AERA」の人物ルポ「現代の肖像」に執筆多数。著書に『「気づき」のがん患者学』(NHK出版新書)など。 「#老いる社会」はYahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の一つです。2025年、国民の3人に1人が65歳以上、5人に1人が75歳以上となります。また、さまざまなインフラが老朽化し、仕組みが制度疲労を起こすなど、日本社会全体が「老い」に向かっています。生じる課題にどう立ち向かえばよいのか、解説や事例を通じ、ユーザーとともに考えます。