サントリーが"ヨーロッパ風”の同族経営にこだわる根本理由、創業一族の社長就任で注目される同族経営論
「大きな声の2人と話をするうちに、私の声も大きくなってきました。これからも発声練習に励もうと思っています」 来年3月末にサントリーホールディングス(HD)新社長に昇格する鳥井信宏氏(現副社長、58=以下、信宏氏)は、12月12日の発表記者会見で含みのあるユーモアを口にした。 大きな声の2人とは、取締役会議長としてグループの企業統治に専念する佐治信忠氏(現会長、79)と、同じく代表権のある会長として、主に海外を担当する新浪剛史氏(現社長、65)である。信宏氏は国内を中心に見る。
■「父親」を彷彿とさせる信宏氏 2人に比べれば、信宏氏はおっとりとした感じである。その雰囲気は父で3代目社長だった鳥井信一郎氏と似ている。 会見での新浪氏と信宏氏のやり取りを聞きながら、信一郎社長に大阪でインタビューしたときの光景を思い浮かべた。筆者が質問すると担当の役員が応じ、どの役員も「社長、これでよろしいでしょうか」と発言内容を確認した。信一郎氏は「うん」と一言だけ答えた。信一郎氏は強いリーダーシップを発揮し、発泡酒市場を切り開いたが、威張るところもなく高圧的でもない。聞き上手な人だった。
新浪氏も信宏氏の人柄について「粘り強い、人の話をよく聞く、決めたらすぐにやる、人情の機微に触れるのが上手」と評している。 記者会見での新浪氏と信宏氏のやり取りを見ていると、まるでボケとツッコミのようだった。 新浪氏の舌禍事件(45歳定年など)でサントリーブランドが揺れたことについて、「意図せずご迷惑をかけましたが、今回のトップ人事とは関係ない」と新浪氏は語り、「ノブ(信宏氏の愛称)が優しい言葉をかけて励ましてくれました。嬉しかった」と付け加えた。
すると、信宏氏が「現場は謝らないといけなかったので大変でした」とツッコミを入れる。話し方からすれば、大きな声で持論を語る新浪氏こそツッコミ担当のように見えるが、信宏氏は「これからはツッコませていただきますから」と言いたげだった。 信宏氏は、新浪氏が長所として褒めた「粘り強い」性格を自ら否定した。「私の短所は、しつこさが足りないところだ。まだまだ佐治会長のしつこさに追いついていない」。 ■「粘り強さ」と「しつこさ」