サントリーが"ヨーロッパ風”の同族経営にこだわる根本理由、創業一族の社長就任で注目される同族経営論
しつこさは、サントリーの伝統でもある。その最たる例がビール事業だ。45年間の赤字を覆して今も挑戦し続けている。 創業者の鳥井信治郎氏が一度諦めた事業に2代目社長の佐治敬三氏が再挑戦。そのとき、鳥井信治郎氏が佐治敬三氏にかけた言葉が、今やサントリーの創業精神となった「やってみなはれ」である。失敗をおそれることなく、新しい価値の創造をめざし、挑み続ける精神と行動を意味している。 信宏氏もビール事業には思い入れがある。「ザ・プレミアム・モルツ」の戦略部長として、モンドセレクションの最高金賞を3年連続で受賞している。
信宏氏は2009年4月にサントリーの持ち株会社体制への移行に伴い、HDの執行役員などを歴任後、サントリー食品インターナショナルの社長に就任。2016年にHDの副社長になったが、2022年に酒類販売を担う子会社サントリーの代表取締役に就任した。 新浪氏も信宏氏のしつこさを、ここ2年ぐらいで実感するようになったという。「とにかく国内の現場をよく回る。ここ2年間とその前とでは動きが全然違う」。 最も悔いが残る記憶は「年初1000万ケース達成を目指していたザ・プレミアム・モルツが951万ケースで終わったこと」である。こうした粘り強さをはたで見ていた新浪氏は「(ローソン会長から)サントリー社長に就任してから10年目を迎える節目に鳥井(信宏氏)に任せてもいいと考えるようになり、佐治会長に相談した」。
■親会社が非上場を貫く背景 サントリーHDは、親会社が非上場で、子会社が上場という極めてめずらしい「ハイブリッド・コーポレート・ガバナンス」を展開している。非上場のHDでは、創業後から創業一族である鳥井家と佐治家の直系が交代して社長を4代務めており、信宏氏がいずれサントリーHD社長に就任することは既定路線だった。 こうした中、2014年、新浪氏が佐治信忠社長(当時)から直接スカウトされ初の創業家以外の社長として迎えられたが、当時まだ48歳だった信宏氏がさらに経験を積むまでと見込まれていたのかもしれない。