サントリーが"ヨーロッパ風”の同族経営にこだわる根本理由、創業一族の社長就任で注目される同族経営論
かつて信忠氏(社長時代)にインタビューした際、「後継者についてどう考えているのですか」と聞いたことがある。 その時、同氏は「子どもがおりませんので、うちは私の代で終わり。従甥の信宏もおりますし……」と語った。この発言からも、創業がトップを務め、非上場を維持するのがサントリーの不文律となっていることがうかがえる。 信忠氏はまた、「酒の醸造には長い時間を要する。短期的な利益を要求される株式公開に馴染まない。酒屋で上場していないところは多い」「株主に商品の味を左右されたくない」とも語っていた。たしかに父の敬三氏も「ビール事業が軌道に乗ったのも非上場だったから」と語っていた。
さらに文化を大切にしているサントリーとしては、「直接的な利益に結びつかない社会貢献・文化事業からの撤退を強いられたくない」ことも非上場を貫く背景にある。 サントリーにとって「やってみなはれ」と並ぶもう1つの創業精神が、事業活動で得たものは、自社への再投資だけでなく、顧客へのサービス、社会に還元する「利益三分主義」である。 ここで「社会」という言葉に注目したい。近年、誰もが安易に「社会貢献」と口にするが、企業は社会から監視されている「社会監視機能」を見逃しがちである。上場企業にとっては、株主からの監視は避けて通ることはできないが、非上場企業の場合、サービスや事業を展開している地域社会から監視される。
「社会の監視機能」の「社会」には地域社会だけでなく、従業員の目も含まれる。創業家不在の会社では、ビジネスパーソン同士の権力闘争が激化するが、創業家出身者が社長に就任することが決まっているファミリービジネスにおいては、従業員の目は経営陣(創業家)に集中する傾向がある。「褌(ふんどし)を締めてかからなくてはならない」という信宏氏の一言がこのことを物語っている。 ■創業家が社会貢献にこだわる背景 サントリーHDのような同族企業が、社会や文化に貢献しようとするのも、創業家の名誉(信用)が大きな要因になっているからだ。