父の壮絶DVで家庭崩壊、孤独のどん底にいた女性が「里親家庭」で覚えた「強烈な違和感」
今春大学院を卒業した杉原美優さん(24歳・仮名)が手がける演劇には、虐待や貧困といったテーマが取り上げられる。杉原さん自身、母と共に父からの暴力を受け、精神的に大きなトラウマを抱えた。母は実質女手ひとつで杉原さんを育て上げ、杉原さんもそれに報いようと努めた。が、家族に「普通の暮らし」が訪れることはなかった。 【写真】美大受験のために練習していた杉原さんの絵 前編記事『名前を知らない「アダルトチルドレン父」からのDVを受け続けた20代女性の「壮絶な半生」』はこちらから
母ががんになって
父が留置所から帰ってくるに際し、杉原さんと母は、警察からシェルター(DVから逃れてきた女性や子どもの緊急避難場所として一時的に提供される場)への入居も勧められた。しかし母は事を荒立てなかったのか断り、すぐに働きに出かけていった。 「母は生計を立てるだけで精一杯なのに、私を学習塾に通わせてくれたんです。母は私のことばかり気にして、『いっぱい勉強して、いい大学に行って、ママのこと支えてね』って。実際に、私が学校で良い成績を取ったり、塾での模試の点数が良かったりすると、母は喜んでいた。きっとシェルターを断ったのも、私が学校や塾に行けなくなることを危惧していたのではないでしょうか。 本音を言えば、母には自分の身を守ってほしいし、私の将来の話よりふたりで平和な暮らしがしたかった。けど当時の私は、わがままを言えば、母を困らせてしまうのは良くない、品行方正に振る舞うべきだと思い込んでいました」 杉原さんは県内の模試で30番以内に入るほどの成績を残していた。学校側も、成績優秀な生徒が虐待を受けているとは想像だにしなかったはずだ。 杉原さんが中学生になった頃から、父のDVとは別に、やりきれない現実が突き付けられた。 「母が腎臓がんになり、入退院を繰り返すようになるんです。ますます家計は苦しくなっていくのに、父は相変わらず働かないどころか、たまに『ママは元気なのか』と聞いて来るぐらいで、母の見舞いにも行かない。 母がいない時間が増えて、家事も放置されたままで家もぐちゃぐちゃ。変わらず父は機嫌が悪いと暴力を振るってくるし、それでも学校に通わなきゃと思っていたので、私の精神状態はボロボロでした。母がいない日は、落ち着けないのでうまく寝られず、学校では大体寝ていました」 毎日、コンビニで100円ほどの食品を買って学校に行き、授業中は大体寝ている。そんな様子を心配した同級生が、家に呼んでご飯をご馳走してくれることもあった。ただ、そこで当たり前のようにご飯が出てくる一般家庭を目の当たりにして、杉原さんは余計に憂鬱になった。