北欧の人気照明ブランド「ルイスポールセン」の歴史は、電気供給開始などデンマークの社会ともに歩んできた
経済性を第一に、パーツが少なくてすむシンプルなデザインからスタート
「ルイポールセンには、安らぎを感じる灯りを享受する権利を誰もが持っているという民主的な姿勢がありました」とチャン氏は言う。続けて、「当時は第一世界大戦後、デンマークの国自体も豊かではなく、一般家庭においても照明器具は贅沢品であった頃だから、手の届きやすい経済性を第一に、パーツが少なくてすむシンプルなデザインが特徴でした」。 シンプルで律したデザインは、いつの時代も変わることなくルイスポールセンの照明器具に言えることだが、社会が豊かになるとともに、照明器具のデザインにも豊かさが反映されることになる。たとえば、1926年に生まれたPHランプ(デザイナーのポール・ヘニングセンの頭文字をとって命名)はシェードが3つであるのに対して、第二次世界大戦後の1950年代に入って誕生したランプは、デンマーク経済の成長に合わせるようにシェードの数が5つに増えている。さらに1958年には72枚の金属の葉がシェードを成すPH アーティチョークランプが生まれたように、国の豊かさと共に、ルイスポールセンの照明器具も豊穣さを増していった。
豊穣さが増す一方、多くの人が手に取りやすいランプに
ルイスポールセンは誰もに良質な照明を提供することを目指していたものの、実際の照明器具は高価で、誰もに届く価格ではなかった。「しかし、ルイスポールセンの照明器具は1920年代に道路や映画館、学校、孤児院にも導入されています。そうした場で人々は良質な灯りに触れることができたのでしょう」とチャン氏は言う。「加えてデザインを合理的にすることで製造コストを抑え、より多くの人にとって手に入れやすい照明器具を目指したのです」と続ける。たとえば同じデザインのPHランプをペンダント、デスク、フロアランプへと展開し、シェードの大きさにもいくつものバリエーションをもたせた。 本書ではデザインの長命さにも多くのページが割かれている。PHランプが最初に登場したのは1926年だが、いまでも製造されているルイスポールセンを象徴するランプだ。長きにわたってつくられ続けているから、私たちの目に触れる機会も多く、ルイスポールセンの照明器具にはどこかで見たことのあるものが多い。そして同じデザインが長くつくられ、使われているということは、定期的に新しいデザインを投入する必要に迫られないということだ。 ルイスポールセンは万全のタイミングでしか新商品を発表しない。そのため、150年におよぶ歴史の中で余りあるほどのデザインが生まれているわけではない。「長く存在しているデザインということは、一家の中で何世代にもわたって親しまれているということにもなります。本の執筆にあたり、知人のデンマーク人に話を聞くと、祖父母からルイスポールセンの照明を譲り受けたという人も多いのです」とチャン氏は言う。 デンマークの多くの人の暮らしとともに存在してきたルイスポールセンのランプは、日本とのつながりも深い。本書では日本人とルイスポールセンの照明との関係についても言及があるので、手に取って見るのはどうだろう。 なお、ルイスポールセン東京では、150周年を記念し、1925年のパリ万国博覧会のデンマーク館のためにルイスポールセンが制作したパリランプのオリジナルを特別展示中。99年前の照明の姿を目で確かめてもらいたい。
書籍『Louis Poulsen: First House of Light』
ルイスポールセン特装版はルイスポールセン東京ストアおよび公式オンラインストアのみで発売。 ¥13,200 www.louispoulsen.com/ja-jp/first-house-of-light-book ルイスポールセン東京ストア 東京都港区北青山3丁目2-2 A.Yビル1・2F 通常版は出版元であるPhaidon社のウェブサイトで販売 www.phaidon.com
文:長谷川香苗 写真:ルイスポールセン提供