なぜ独走Vの川崎FからMVPが選出されなかったのか…ベストイレブンに史上最多9人選出も得点王の柏オルンガがゲット
優秀選手賞を受賞した33人のなかに、川崎の選手は13人も名前を連ねていた。ベストイレブンに選出されなかったMF大島僚太と脇坂泰斗、FW小林悠とレアンドロ・ダミアンの全員が攻撃的な役割を担っていることからも、左右対のインサイドハーフ、そして前線の3トップの計5人は、先発を射止めるためにチーム内の熾烈な競争をまず勝ち抜く必要があった。 加えて、新型コロナウイルスの影響で再編成された過密日程を勝利で乗り越えるために、鬼木達監督は攻撃陣にローテーション制を導入しただけでなく、従来の「3」から「5」に増えた交代枠をほぼすべての試合で行使。必然的に川崎攻撃陣のプレー時間は他チームに比べて短くなる。逆に考えれば心身両面で好調を維持しながら、ピッチに立った全員が切磋琢磨するように大活躍を演じてきた。 例えば30試合に出場した三笘のプレー時間は1603分で、全34試合3060分の約52%にとどまっている。32試合、2729分に出場したオルンガは約89%に達し、身長193cm体重85kgの巨躯に搭載された規格外のスピードと身体能力、利き足の左足に宿る決定力の高さを存分に披露してきた。 叩き出した28ゴールは得点ランク2位のエヴェラウドに10点差をつけるだけでなく、J1が現体制になった2005シーズン以降でも2番目に多い。90分あたりの得点を比較しても、三笘の『0.73』に対してオルンガは『0.92』と、1試合1ゴールに近い数字を叩き出している。 得点シーン以外にも対戦相手を畏怖させ、敵味方の垣根を越えて観ている側を驚かせ、ワクワクさせるプレーを数え切れないほど見せてきた。最優秀選手賞の英訳となる<Player of the Year>の観点で、つまり個人のパフォーマンスだけで判断すれば、これまでの9つのシーズンと同じ図式のもとで優勝チーム以外から、選考委員会も文句なしでケニアから来たストライカーを選出したのだろう。 もっとも、恒例の年間表彰式を終えても、今シーズンを盛り上げてきた男たちの戦いは終わらない。チーム内で新型コロナウイルスのクラスターが発生した関係で、FC東京との決勝が来月4日に延期されているYBCルヴァンカップ制覇へ、オルンガはエースストライカーとして照準を合わせる。 そして、川崎の左ウイングを担う三笘は元日に待つ天皇杯との二冠獲得を目指して、ブラウブリッツ秋田と福山シティFCの勝者と対戦する、27日の準決勝(等々力陸上競技場)へ気持ちを切り替える。くしくも同じ新国立競技場で待つファイナルへ向けて、最後のドラマが幕を開ける。 (文責・藤江直人/スポーツライター)