<1勝にかける・カトガク、甲子園へ>/中 「最後の夏」中止…冷静に受け止め 後輩に「良いチーム」残す /静岡
◇3年の役割は「練習継続」 新型コロナウイルスの影響でセンバツ(選抜高校野球大会)が中止されたものの、夏の甲子園(全国高校野球選手権大会)への出場を目標に掲げ、再始動した野球部。5月の半ばを過ぎたころ、チームに不穏な空気が漂い始める。「夏の甲子園も中止か」。インターネットで流れる報道に勝又友則主将(3年)の胸がざわついた。 【真夏の熱闘】交流試合の写真特集はこちら 新型コロナ感染症は拡大を続け、他競技の多くが大会の中止を決めていた。最悪の事態も覚悟する。「目の前が真っ暗になる」という状態も初めて経験した。小さなころから積み重ねた練習の成果、初めて手にした甲子園へのチケット、「最後の夏」への挑戦……すべてが両手からこぼれ落ちていくかのような喪失感を味わった。 オンライン会議システム(Zoom、ズーム)で3年の全部員によるミーティングを開き、気持ちをぶつけ合った。どの表情も暗く、やり取りが続かない。誰が切り出したのか、米山学監督の話題になった。米山監督は常に部員に「チームのため、自分の役割を考え、全うする」ことを求めていた。「3年としての役割は何だ」 日本高野連は5月20日、夏の甲子園の中止を発表した。中止を伝える米山監督の発言を部員たちは冷静に受け止めていた。勝又主将が「後輩に『よいチーム』を残すために練習を続ける」と宣言すると、米山監督の表情がわずかに緩む。最後の夏がなくなっても、後輩たちのことを考えよう。3年の部員たちが出した結論だった。 新型コロナ感染症の拡大が落ち着きをみせ、グラウンドで全体練習する毎日が戻ってきた。大会はなくても、白球を追いかける部員たちは野球ができる喜びをかみしめていた。すると、朗報が舞い込む。6月5日に県内一を決める県独自大会、10日にセンバツ出場校によるセンバツ交流試合の開催が相次いで発表された。 10日は大勢の報道関係者がグラウンドに押し寄せてきた。米山監督がカメラの前で「腐らずにやっていればよいことがある」と語りかけると、部員たちが白いマスクの中で笑みをこぼした。勝又主将は「甲子園に行くよりも大切なことを指導者、仲間に学んだ。それだけを忘れずに前を向いてきた」とインタビューに応じていた。 各自が取り組んだ基礎体力づくりの成果も出始めていた。肥沼竣投手(3年)は直球の球速が139キロから143キロにアップ。中軸を担う大村善将内野手(3年)も「芯に当たらなくても外野の頭を越える打球が増えた」と胸を張った。「甲子園に行くチーム」としてまず、県独自大会を制する。部員の誰もが高揚していた。 だが、甲子園への道のりは甘くない。7月12日にあった県独自大会の1回戦。飛龍に敗れ、初戦でトーナメント表から名前が消えた。センバツの中止、夏の甲子園の中止に続いて訪れた3度目の試練だった。【深野麟之介】 ……………………………………………………………………………………………………… ◇県独自大会の戦績 ▽1回戦 ・7月11日(愛鷹球場) 加藤学園 110 飛龍 00 ※三回表、雨天ノーゲーム ・7月12日(清水庵原球場) 加藤学園 0000110=2 飛龍 100002×=3