「近親間の不動産の貸し借り」「暗闇で違法駐車に衝突」…「人生の地雷」を踏まない方法を、1万件超の事案を扱った元・裁判官が伝授する
裁判官として1万件超の事案を扱ってきた大学教授・瀬木比呂志さんが、「一生の間に遭遇するあらゆる法的トラブル」を予防する実用書『我が身を守る法律知識』(講談社現代新書)。 【写真】なんと現代日本人の「法リテラシー」は江戸時代の庶民よりも低かった? 不動産トラブル、交通事故…いつ自分にふりかかるかわからない「よくある法的トラブル」について、瀬木さんにお話を伺った。 【前編】1万件超の事案を手がけた元裁判官が「人生を棒に振らないための実用書」を書いたワケ
日本人は紛争の可能性を考えない
―― 不動産関係の法的トラブルについてお話を聞きます。 私が読んでまず印象的だったのが、冒頭に紹介された「使用貸借」のエピソードです。 使用貸借した土地に家を建てた場合、土地所有者との信頼関係が失われると、自宅を取り壊して、更地にして返却しなければならない可能性が高いという記述ですが、正直驚きました。数千万円をかけて建てた自宅をいきなり取り壊して、明け渡すなんて……。使用貸借の権利は、法的にきわめて脆弱なんですね。 瀬木そうですね。使用貸借というのは無償の契約、いわば貸主の好意だけを基盤とする契約ですから、信頼関係が破壊されれば解除されます。 ところが、日本では、近親間、知人間における土地や建物の使用貸借が非常に多く、深刻な紛争の種になっています。 これには、契約に当たって「将来の紛争の可能性」を考えないという日本人の特性も関係しています。やや厳しい言葉を使えば、危機管理に関する意識があまり高くない、ということですね。
近親間の不動産の貸し借りは訴訟になりやすい
―― 使用貸借の訴訟やトラブルについての具体的なエピソードを教えてください。 瀬木訴訟にまでなることが多いのは、今も挙げた、近親間の土地や建物の使用貸借ですね。 本書では、不動産に関する章で、さっき挙げられた例のほか、 1 夫が建物をその兄弟姉妹に使用貸ししていたが、夫の死後、妻と借主の仲が悪くなった(信頼関係破壊) 2 義父の土地を使用借りしてそこに建物を建てたが、税金対策上よいと言われて建物を義父名義としておき、義父の死後に相続人らの多数派との間で所有権をめぐる紛争になった という例を挙げています。 後者では、建物の名義は自分に戻せたとしても、相手側との紛争状態は続きますから、建物存続のために土地を使用収益をするのに必要な期間(判例では40年程度)が過ぎれば、やはり建物収去土地明渡訴訟を起こされることになるでしょう。 やや難しいので、詳しくは、本書を読んでいただかないとわかりにくいかもしれませんが。 ――そうですね。私は読んだからわかりますが、難しく思われるようなテーマでも、「読んでみると、解説されてみると、目からウロコ」という記述になっていますね。 確かに、不動産関係は、相続関係に次いで、読んでもらわないとイメージがつかみにくい部分が多いので、大づかみな質問をしますと、使用貸借以外の不動産関係のトラブルで多かったものは、何でしょうか?