「近親間の不動産の貸し借り」「暗闇で違法駐車に衝突」…「人生の地雷」を踏まない方法を、1万件超の事案を扱った元・裁判官が伝授する
裁判所の過失相殺マニュアルに唖然
―― 過失相殺のマニュアル利用裁判にも驚きました。暗闇に違法駐車した無灯火の汚れて薄黒い車に追突しても、追突したほうが基本100%の過失とは……。 絶句しました!ここまでいくと、裁判官はとんでもないアホなんじゃないかと思ってしまいます。 瀬木このマニュアルは、多数発生する交通事故の過失相殺について担当する裁判官により過失相殺率にばらつきが出てしまうのを防ぎ、一つの基準を示すために作成されたものでしょう。その性格からすれば一部の裁判官の作成した過失相殺の目安にすぎないのですが、裁判実務を含む実務では広く参照されているわけです。 しかし、このマニュアルでは、被害者の側の過失の一つ一つについて細かく加算される仕組みになっているので、最終的に導き出される過失相殺率は、通常人の常識的な感覚からは離れたものとなりやすいのです。 その典型例が、違法駐車車両衝突の場合ですね。 ―― そうです。その場合が特に引っかかったのです。
追突したのが違法駐車車両でも…
瀬木動いている自動車どうしならマニュアルも一応の目安としては理解できますが、違法駐車車両衝突の場合、いわば道路に障害物が置かれているのと同じことなのですから、一般的な交通事故の場合のように双方について基本的な過失割合を想定できるものではないと思います。 運転者からみての障害物の放置責任という責任の実質を見据え、通常の事故の場合以上に前提事実を細かく確定、分析した上で、適切な過失相殺の割合を考えるべきでしょう。 具体的には、昼間に路側帯からわずかにはみ出した状態の駐車車両に追突した場合であればともかく、先に挙げられた事案では、駐車車両側の落ち度が明らかに大きいわけですから、過失相殺の割合は小さくてしかるべきです。 先のような事案について過失相殺の割合を小さくした私の判決は広く注目されたのですが、その判決後のマニュアルの改訂版では、私の判決をも意識してか、こうした事案における算定表が新たに追加され、その算定表では、追突車両の基本過失割合が何と100%となっているのですね。 そして、駐停車禁止場所でも、これから10%マイナスになるだけです。 これは、ほとんどブラックジョークであり、まるで、裁判官ではなく保険会社が作成したマニュアルのようです。そして、私の先の判断は、今でも孤立した判例のままとなっています。 ネットでも、法律家を含め、判で押したように「追突車が100%、追突車が100%」と書いている記述が多いのですが、「自分で考えないで大勢に無批判に従う」という日本人の問題点の一つの表れ、という気がします。