「近親間の不動産の貸し借り」「暗闇で違法駐車に衝突」…「人生の地雷」を踏まない方法を、1万件超の事案を扱った元・裁判官が伝授する
保険の基礎知識を知らないと人生を棒に振る
―― このマニュアルには、裁判官の多くも従っているのでしょうか? 瀬木すでに述べたとおり、これは本来1つの目安であって、現実の事案では、さまざまな要素を慎重に吟味しながら過失相殺を考えるべきです。 でも、マニュアルに無批判に従う裁判官もいますよね。保険会社等では一層その傾向が強くなります。 ですから、示談交渉においても、こうした点に疑問がある場合には、弁護士に相談したほうがいいといえます。 ―― 私は、保険に加入していれば、万一被害にあったとしても、経済的なリスクは回避できると思っていましたが、こうした考えは甘いのでしょうか? 瀬木まず、保険は、あなたが加害者になった場合に支払うべき損害を填補するものが基本ですね。こうした対人・対物賠償は無制限にしておくべきです。 自分が被害を負った場合については、相手の保険会社と交渉、請求することになりますが、あなたの会社が示談代行サービスをしてくれても、その結果が満足できるものとは限らないです。また、相手が任意保険には入っていないかもしれません。 したがって、自分の側の損害、特に人身傷害をカヴァーする保険にも入っておくべきです。 こうした保険の基礎知識についても正確に知っておかないと、いざという時に困るのです。場合によっては、実際上人生を失うことにもなりかねません。 ―― 弁護士特約についても記されていますが、「追突事故では保険会社の示談代行サービスが原則使えない」ということなのですね。相手に100%過失があるのに、保険請求の示談代行をしてもらえないというのは、落とし穴ですね。「あなたには全く過失がない。だからお手伝いできない」というのは、契約者としては納得しがたいものがあります。 瀬木これは、法的にはやむをえないですね。 あなたに過失がない場合に保険会社が示談交渉をすると、弁護士法72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)にふれるおそれがあるからなのです。 したがって、そのような「もらい事故」の加害者ないしその保険会社との交渉、これに対する請求や訴訟は、被害者が自分で行う必要があります。こうした場合を含め弁護士への依頼が必要になった場合の負担に備えるのが、弁護士特約なのです。 ―― 万が一、交通事故にあったときに法による保護が十分でないということになると、最大の防御策は事故にあわないように安全運転に努めるしかありませんね。身も蓋もない話ではありますが……。 瀬木全くそのとおりであり、予防法学は、「紛争に関する的確な法律知識や法的リテラシーを備えることによって、適切な予防措置をとれるようになる、紛争や危険を避けられるようになる」ことに、その大きな意味があるわけです。