「近親間の不動産の貸し借り」「暗闇で違法駐車に衝突」…「人生の地雷」を踏まない方法を、1万件超の事案を扱った元・裁判官が伝授する
「人生の地雷」を避けるには
瀬木賃貸借がらみが、数としては最も多いですね。賃料不払、使用方法違反、無断転貸等です。 賃貸借については、信頼関係を破壊すると認めるに足りない特別な事情を借主が抗弁として主張できるので、細かな争いになると結構長引きます。 また、土地購入に当たっても、建物購入に当たっても、最低限注意しておくべき事柄はかなりあります。 建物新築については、欠陥住宅の問題がありますし、仮契約と本契約、後者を解除できる時期等についての正確な知識も必要です。 裁判所が行う不動産競売は国家が品質を保証するものではないし、隣人間紛争は、一生続く心労の種になります。 ――要するに、紛争の種はどこにでも転がっており、地雷原を歩いているようなものだということですね。 瀬木はい、法的な出来事については、本当をいえば、そういう部分があります。知らずに地雷原を歩いているようなもの……。 ただ、地雷原と違うのは、きちんとした基礎知識や感覚があれば、紛争のほとんどは避けられるという点ですね。
法律家も手こずる自動車保険の複雑さ
―― 交通事故についても記述が充実していますね。でも、自動車事故については、自動車保険に加入すれば、わざわざ法律知識など必要ないようにも思うのですが……。 瀬木そう思う人もいるでしょうね。しかし、たとえば、自動車保険については結構制度が複雑で、法律家でさえ、交通事故訴訟を扱わなければ、正しく理解していないことも多いのです。 また、損害賠償額が驚くほど小さいこと、将来の逸失利益や介護費については、現在の時点に法定利率で引き直す計算がされること(中間利息控除)、被害者についても大きな過失相殺がされることなどは、誰でも知っておくべきことです。 そうした厳しい現実を踏まえれば、本当に今のような制度でいいのか、被害者にとって公正・公平なのかという疑問をもつこともでき、また、安全な運転や歩行、それらに関する子どもの教育も考えるようになるでしょう。たとえば、子どもが自転車で起こす事故が、その親に対する大きな損害賠償請求の原因になっています。 事故発生後の対応や保険会社等との交渉についても、一通りの注意事項は知っておくべきです。 ―― 将来の逸失利益や介護費の算定については、ひどいものですね。この低金利時代に3%の確定利回りの投資商品なんて存在しないのに、それを前提にして賠償額を決めるなんて、ナンセンスの極みだと思います。 裁判官は世間知らずなのか、確信犯的に賠償額を下げようとしているのか、いずれなんでしょうか? 瀬木中間利息控除は、本来であれば将来受け取るはずの金額を現在の時点で一括で受け取るのだから、その間の利息を差し引くというものであり、現在の時点で一括で受け取った金銭の運用により実際に利益を上げることができるなら、合理性のある制度です。 しかし、実際に金銭を運用する場合でも法定利率の利益を毎年コンスタントに上げるのはおっしゃるとおり非常に難しい上、死亡事故でみると保険金は平均わずか6千万円ですから、被害者の遺族がしばらくのうちにそれを使い切ってしまうことも明らかであって、そもそも「運用利益」などありえませんね。 事故当座の特別な出費だけでも、かなりの金額になることが多いわけですから。それにもかかわらずの中間利息控除なのです。 ただ、これは日本だけのことではなく、むしろ、日本を含め多くの国々では、交通事故損害賠償に関する社会の判断のはかり、基準は、被害者に厳しく、加害者、保険会社とその利用者には甘く設定されており、また、そのような問題の存在や基準の妥当性について意識している人々もきわめて少ない、ということなのです。 本書では、種々の法律問題について、こうした法社会学的な観点から、その妥当性を考えていただくための記述をも行っています。