「AIBO」開発に携わった技術者が語る、感情移入できるITデバイスとは
THE PAGE
オルゴールのような音楽が奏でられると、人形の型をしたロボットが動き出した。両腕を広げ、足を伸ばし、右手で顔を覆う。その動作は静かで滑らかだ。身体はスリムで、同じロボットでも、たとえば産業用ロボットのような大柄な体格とはまったく印象が異なる。ロボット開発会社のスピーシーズ。昨年12月、玩具メーカーのボークスとこの人形型ロボット「ドルフィー ハニー」を発表した。
表現力があり感情移入できるITデバイス
この製品にはスリムな体型の人形を、滑らかにかつ静かに動かす技術の「モーションフィギュアシステム」が採用されている。「従来型のロボットの外見では、感情移入をすることが困難です。私が考えるロボットの定義は、表現力があり感情移入できるITデバイスのことです」と趣味の世界以外の分野にも応用する構想を描く。 春日社長は、元ソニーの技術者で、パソコンの「VAIO」や、犬型ロボットの「AIBO」の開発にも携わった経歴を持つ。同社を退職後に立ち上げたスピーシーズでは、2足歩行ロボットなどを開発するなど、ロボット分野で実績を重ねてきた。
ドルフィーハニーは身長約60cm、全身に配したワイヤーをモータで操作して体を動かす。関節は計28個搭載しており、1つの関節につきワイヤーを2本使用する。たとえば足首の関節なら、2本のワイヤーを交互に引っ張ったり伸ばしたりすることで、足首を伸ばしたり曲げたりさせることができる仕組みだ。モータや制御用の電子部品、ワイヤーを操作する機構は、人形の下に配置したユニットにまとめて収納している。 これら一連の技術がモーションフィギュアシステムであり、スピーシーズが開発した。ドルフィーハニー以外の自社製品にも搭載している。従来型のロボット技術では、関節を動かすため体内にモータを組み込む必要があることから、動作するドールやフィギュアの実現は困難だった。
趣味のラジコンからヒントを得て課題を克服
モーションコントロールシステムの開発過程では、さまざまな課題にも遭遇した。たとえば、関節を動作させるワイヤーは当初1本で、これにバネを組み合わせていたが、なかなか滑らかに動いてくれない。 助けてくれたのは、趣味のラジコンだった。ラジコンのヘリコプターや飛行機を見ると、機体のローターや翼を2本のワイヤーで操作するという技術が普通に用いられている。この技術を応用したところ、問題を克服することができた。「視野を広く持つことが必要です。新たなことに取り組まねばならない時には、今まで蓄積してきた専門知識が役に立たないこともありますから」。