<軽視されるコロナ後遺症>腰の引けた医師の対応、悩んでいる患者…精神科医から伝えたいこと
一週間もすればこれはできるようになる。次は、午前に加えて、午後の後半に3、4時間離床することである。昼寝はかまわない。しかし、その後は、椅子に座る。 3度の食事と午前・午後3、4時間ずつの離床が実現すれば、日中の無重力時間は50%を切る。すでに、「7: 身の回りのことはでき、介助も不要ではあるが、 通常の社会生活や軽作業は不可能である」段階に移りつつある。 そこから先は、スマートフォンの行動量計を使って、歩数を上げていけばいい。現状で1日の歩数が500歩(1分100歩なので、5分に相当)を割っているなら、500歩から始めればいい。トイレ、食事、入浴等ですでに歩いている。それに加えて、午前、午後、可能なら、家の周りを少し歩いてみたい。 その後は、今週は1000歩、次週は2000歩というように少しずつ上げていく。最終的に6000歩程度までふやしたい。歩数の増加とともに、日中の無重力時間の漸減を図る。そのために夕食後の就寝を徐々に遅らせ、最終的に夕食後3時間はGに抗って過ごしたい。
精神科医は患者のこころを見る
精神科医がコロナ後遺症を診る場合、「こころ」も診る。私どもは、患者を「こころの病」とはみなさないが、気持ちを察することは試みる。 物の見方、考え方(「認知」と呼ぶ)がどうなっているかは常に診ている。離床、歩数など、行動に働きかけるが、同時に、患者の認知をもモニターしている。 コロナ後遺症患者は、倦怠感・疲労感に苛まれて、悲観的になっている。周囲の働きかけも拒否しがちである。このようなマイナス思考を受け止めつつも、徐々に建設的な行動へと促していかなければならない。 それまで終日臥床していた人にとって、日中4時間の離床であっても、頸部、腹筋、背筋、すべてに対して荷重を課すことになり、かなりの運動になる。一見、動いていないようであっても、本人にとっては「くたくた」と感じるほどの疲労がもたらされる。 この点については、「その疲労は症状ではない。むしろ、適度の疲労こそ、よき睡眠をもたらす」ということを、丁寧に説明しなければならない。「少し疲れたら、その疲れで眠りましょう」と返答する。 「とても無理」というネガティブな認知に抗いつつ、徐々に活動負荷を上げていく。精神科医としては、ここに「患者の認知を修正する」という隠された課題があることは意識している。「もうダメ」、「とても無理」という患者の訴えは、悲観しすぎである。 そもそもコロナ後遺症の倦怠感は、がん、心筋梗塞、脳卒中等の致死的な疾患の症状ではない。がんですら仕事と治療の両立支援が謳われている時代(厚生労働省 2022 事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン 改訂版)である。非がん性のコロナ後遺症患者が、倦怠感を理由に過度の安静を続けることは、害の方が大きい。このことは、折に触れて説明しておきたい。