<軽視されるコロナ後遺症>腰の引けた医師の対応、悩んでいる患者…精神科医から伝えたいこと
筋力低下は高齢者だけの問題ではない
筋萎縮や筋量減少といえば高齢者の話だと思われがちだが、若い世代にも起こりえる。 私たちの祖先は、600万年前に後脚2本で立ち上がった。以来、ホモ属は重い頭部を最上部において、前後左右の微妙なバランスを取りつつ、それを後脚2本のみで支えて、そのまま前向きに歩行するという、動物としては奇矯な姿勢を続けてきた。ただ、この不自然な歩行も、それを600万年も続ければ、板についてくる。ついには、直立二足歩行しなければ全身が衰弱するような、そんな作りになってしまった。 この点が明らかになったのは、20世紀になってからである。人類史上初めて地球の重力加速度Gに逆らわずに生活する人が現れた。宇宙飛行士である。 彼らは、地上に生還したとき、全身の筋・骨がすっかり衰えていた。宇宙滞在中にまったく抗重力筋を使わなかったからである。 宇宙航空研究開発機構(JAXA)の大島博氏によれば、宇宙空間では筋力が6カ月の長期滞在後に10~20%も低下したという。この値は驚くべきだが、宇宙では抗重力筋が1日あたり1%細るとされ、地上で寝たきり実験を行っても、やはり1日0.5%程度の筋減少が生じるとされる。 Gに逆らわないと全身が衰弱する。強壮なはずの宇宙飛行士だってそうなのだから、コロナ後遺症患者も同じである。
コロナ後遺症患者は無重力状態
コロナ後遺症患者を診るときに、第一にすべきは無重力時間、つまり、ベッド上にいる(臥床)時間がどの程度かを聴き取ることである。それによってリハビリの目標が異なってくる。 活動性の程度は、「慢性疲労症候群 PS(performance status)による疲労・倦怠の程度」(旧厚生省 慢性疲労症候群診断基準試案)により見積もることになる。「9: 身の回りのことはできず、常に介助がいり、終日就床を必要としている」場合、歩いて外来に来られないので、精神科医を訪れることはない。 私ども精神科医が診る最重症は、「8: 身の回りのある程度のことはできるが、しばしば介助がいり、 日中の50%以上は就床している」である。このレベルなら、散歩や運動は無理で、まずは、「午前中だけでも椅子に座っていましょう」と促すところから始めるべきであろう。 これだけでも、抗重力筋のうちの、腹部・胸部・頸部の筋群が緊張する。それに加えて、一日数回のトイレ使用があれば、下腿・大腿も使う機会があろう。