上谷沙弥 「令和の極悪女王に」 元アイドルからプロレス団体の頂点に到達
【牧 元一の孤人焦点】プロレスラーの上谷沙弥(28)がついに女子団体「スターダム」の頂点に立った。12月29日夜、東京・両国国技館で「ワールド・オブ・スターダム王座」(赤いベルト)の王者・中野たむを破り、第20代の王者となった。 試合直後、会場内で単独インタビューに応じた上谷は「あの中野たむの顔、見た?だまされちゃってさ。あいつは最後まで私を信じていたみたいだけど、これが今の私、これが結果。だから、おまえ、現実を見ろよ」とヒール(悪玉)レスラーらしい不敵な笑みを浮かべた。 緊張感あふれる試合だった。終盤でコーナーポストから雪崩式タイガースープレックスを受けると、うずくまって動かなくなった。昨年7月、リーグ戦「5★STAR GP」開幕戦でリング外の鉄柱から中野に対してダイビングボディアタックを敢行し、左肘を脱臼した事故を思い起こさせる場面だ。 ところが、それはヒールらしい戦略だった。容体を尋ねに来たリングドクターを突き飛ばすと、ぼうぜんとしていた中野に対してフランケンシュタイナー、スタークラッシャーを繰り出し、最後に旋回式スタークラッシャーでとどめを刺した。 「見ている奴らも全員だまされたみたいだね。毎年、年間の最後の大会はハッピーエンドみたいなものが多かったけど、きょうは中野たむにも、見ている奴らにも、地獄を見せてやろうと思っていたんだ。思い通りの試合ができたよ」 勝利後、望んだのは祝福の歓声ではなかった。敗れてうなだれる中野に対し、赤いベルトを掲げて「巻けよ。巻けって言ってんだろ。ほらほら。チャンピオン様だぞ。言うこと聞けよ」と言い放ち、自分の腰にベルトを巻かせる場面を作った。案の定、客席から激しいブーイングが起きた。 「ブーイングを浴びるのは想像通りの結果だよ。ヒールチャンピオンっていうのは、今までここにはほとんどいなかったからね。来年は私が悪の絶対王者として、自由に黒い翼を広げて、スターダムをめちゃくちゃにして、選手のみんなをぶっ潰して行きたいと思ってる」 スターダムのプロテストに合格して約5年。ベビーフェイス(善玉)からヒールに転身して約5カ月。とうとう団体の頂点に到達した。 「ずっと巻きたかった赤いベルトを巻くことができて、狂うほど、めちゃくちゃうれしいよ」 これはベビー、ヒールに関係のない本音。そして、王者として団体をひっかき回して行く、つまり団体を今以上に盛り上げて行く先に見えるものは何か。 「……。何だろう?そうだな。上谷沙弥の名前を世間にとどろかせて、昭和の極悪女王を超えて、令和の極悪女王になるよ」 アイドルユニット「バイトAKB」のメンバーだった頃から約10年。今回の試合前のインタビューで聞いた質問「元アイドルであることは?」を再びぶつけてみた。 「はあ?そんなの全く覚えてねえから。何度も聞くんじゃねえよ、ボケ!」 さすがヒール王者の的確な答え。2025年、この人の戦いにさらに注目していく。 ◇上谷 沙弥(かみたに・さや)1996年(平8)11月28日生まれ、神奈川県出身の28歳。2014年、バイトAKBのメンバーに。18年、スターダム★アイドルズに加入。19年、スターダムのプロテストに合格。21年、シンデレラ・トーナメントで優勝。同年、中野たむをフェニックス・スプラッシュで破り、白いベルトを獲得。23年、15回連続防衛記録を樹立。身長168センチ、体重58キロ。 ◆牧 元一(まき・もとかず) スポーツニッポン新聞社編集局文化社会部。テレビやラジオ、音楽、釣りなどを担当。