日銀はマイナス金利撤回へどう理論武装する?「中立金利」に注目
「中立金利」上昇の可能性に言及するか
では日本の中立金利はどれくらいかというと日銀からの公式的な情報発信はありません。ただし市場参加者の推計値は0~1%に収まるとみられ、中心値としては0%台半ばというのが筆者の感覚です。その前提になる自然利子率(経済・物価に対して引き締め的にも緩和的にも作用しない中立的な実質金利)については、IMF(世界通貨基金)の推計値(2023年)が▲0.4%程度、日銀スタッフの推計値(2018年)が0%程度、予想インフレ率については0%台前半~1%程度であると思われます。 なお日銀が中立金利の推計値を公表しない理由を筆者なりに推測すると、仮に自然利子率を0%に置いた場合、そこに物価目標の2%を素直に足し込むと中立金利が2%という直観的にも明らかに高い値になってしまうからではないでしょうか。仮に中立金利が2%だとしたら、マイナス金利で物価が上昇しなかった理由を説明するのはかなり厳しいものになります。 今後、日銀がマイナス金利撤回に向けて理論武装を強化するならば、現在実施している金融政策の多角的レビューの一環として自然利子率や中立金利に関する議論が深掘りされそうです。日銀が具体的な中立金利水準に言及しなくとも、コロナ期を経て中立金利が上がった可能性などに言及があれば、それはマイナス金利を撤回する一つの根拠になり得るでしょう。賃金、物価データに加え、中立金利に関する日銀の認識にも注目が必要です。
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