民主主義にリベラルアーツ教育は必要なのか―石井 洋二郎『リベラルアーツと民主主義』本村 凌二による書評
一昔前から、教養教育が軽視されがちになり、代わって「リベラルアーツ」なる表現が目立ってきた。中部大学の主催するシンポジウムでは、ここ数年「21世紀のリベラルアーツ」「リベラルアーツと外国語」「リベラルアーツと自然科学」のテーマがとりあげられ、昨年初夏に「リベラルアーツと民主主義」が開催されて、ひとまず完結したらしい。 報告者3人は、まず政治思想史の宇野重規氏で「民主主義に教養は必要なのか」というズバリの問いから、特定の専門知識ではなく他者と粘り強く言葉を交わす資質を培うことだと指摘する。次に、現代思想・政治思想史の重田園江氏は「リベラルアーツはなぜ『価値を変える』ことができるのか」と問いかけながら、国家や政府を批判しても話を聞いてもらえるという点ではリベラルアーツの批判性を保証する民主主義がありうることを明らかにする。 最後に、哲学者の國分功一郎氏は「創出されるべきものとしての民主主義」と題して、古代のギリシアとローマの事例を用いながら、代表者ではなく自分で判断し行動する市民の自覚を促すのが民主主義の特質であることを論じる。 [書き手] 本村 凌二 東京大学名誉教授。博士(文学)。1947年、熊本県生まれ。1973年一橋大学社会学部卒業、1980年東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学。東京大学教養学部教授、同大学院総合文化研究科教授を経て、2014年4月~2018年3月まで早稲田大学国際教養学部特任教授。 専門は古代ローマ史。『薄闇のローマ世界』でサントリー学芸賞、『馬の世界史』でJRA賞馬事文化賞、一連の業績にて地中海学会賞を受賞。著作に『多神教と一神教』『愛欲のローマ史』『はじめて読む人のローマ史1200年』『ローマ帝国 人物列伝』『競馬の世界史』『教養としての「世界史」の読み方』『英語で読む高校世界史』『裕次郎』『教養としての「ローマ史」の読み方』など多数。 [書籍情報]『リベラルアーツと民主主義』 著者:石井 洋二郎,宇野 重規,重田 園江,國分 功一郎 / 出版社:水声社 / 発売日:2024年02月9日 / ISBN:4801007902 毎日新聞 2024年4月27日掲載
本村 凌二
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