どうしても止められない…「万引き」と「過食症」に共通する異常心理
完璧主義、依存、頑固、コンプレックスが強い。どんな人にも、こうした性質はあるものです。しかし、それが「異常心理」へとつながる第一歩だとしたら……? 精神科医・岡田尊司さんが、私たちの心の中にひそむ「異常心理」を解き明かす。『あなたの中の異常心理』から一部を抜粋してご紹介します。
万引き常習犯は「盗る」ために盗っている
もっとも身近な犯罪行為である万引きと、過食症という食べることへの依存症は、まったく別の行動のようでいて、大きな共通項がある。それは、どちらも幼い頃に愛情不足を味わった人にみられやすいということである。ことに、若い女性では、両者が併存することも少なくない。 有名なハリウッド女優や社会的な地位のある人物が、わずかな金額の品物を万引きして、ニュースになるということが、ときどきあるが、彼らが物やお金に不自由して、万引きをしているのではないことは明らかだ。なぜ、自分の名声や社会的地位を危うくしてまで、千円か2千円のものをポケットに入れねばならないのかということは、多くの人が疑問に思うことだろう。 有名人でなくても、万引きを常習的に行う人の場合、お金や物がなくて、切羽詰まって万引きしている人は少数派である。家に帰ったら、万引きした同じような品々が、置き場がないほどに溢れかえっているというケースもある。盗んできたマンガの本が、読みもせずに山積みされているという場合もある。 必要を満たすために盗るのではなく、盗るために盗っていると言った方が近いのである。経済的な利得よりも、心理的な利得の方がはるかに大きいのである。それゆえ、捕まってしまえば割に合わないどころか、社会的制裁を受けることによってはるかに大きな経済的損失を生じてしまうとわかっていても、つい手が伸びてしまうのである。そこで優先されているのは心理的な満足であり、快感なのである。 それはちょうど、過食症の人の行為とよく似ている。過食症の人は、栄養が不足して、足りない栄養を満たすために過食に耽っているわけではない。 栄養的には、あり余っているとも言えるだろう。実際、過食症の人では、せっかく胃袋に入れても、食べた後ですべて吐いてしまうことも多い。その行為は体の必要を満たすためではなく、食べるために食べているのである。その行為自体が目的化している、つまり自己目的化という点が、常習的な万引きとよく似ている。