どうしても止められない…「万引き」と「過食症」に共通する異常心理
万引きと過食が「快感」を生む
それにしても、盗るために盗ったり、食べるために食べたりするのは、いったい何のためなのだろうかという疑問が次に湧き起こるだろう。 それに対する答えの一つは、それらの行為には、どちらも強烈な快感を伴っているということである。万引きをして品物をポケットに入れたり、自分のカバンに入れたりするとき、ハラハラドキドキする気持ちと同時に、何とも言えない快楽を感じているのである。過食するときの快感も似ている。 過食してしまいそうだという危惧の念の一方で、過食するということは、過食症の人にとって、ある種のお祭り騒ぎか、背徳的なパーティのように魅力的な行為なのである。実際、過食症の過食行為は、専門用語で、「ビンジ・イーティング(binge eating)」(ヤケ食い)というが、その原意は、食い放題のどんちゃん騒ぎということである。 過食症の女性は、過食に対して、罪の意識と同時に、強い誘惑を感じる。過食行為には、性行為に溺れることと同じような本能的な快感があるからである。 しかし、あり余っているものを盗ったり、食べる必要もない物を食べたりすることは、健康な心のバランスをもつ人には快感となり得ないだろう。それゆえ、多くの人は、捕まるという危険や健康を害するという危険を冒してまで万引きをしたり、過食したりすることはしない。 ところが、窃盗癖や過食症の人では、その快感が強烈であり続けるため、デメリットを考えれば明らかに不利益だとわかっていても止められないのである。 なぜ、そんなことが起きてしまうのだろうか。 それに対する答えは、この2つの一見無関係な状態の根底に潜んでいる本質的な問題と関係している。それは、この項の最初に述べた経験的な事実、窃盗癖も過食症も幼い頃に愛情不足を味わった人にみられやすいという事実とも関係している。 つまり、これらの状態は、幼い頃に刻まれた根本的な欠落や、それに対する飢餓感が存在していて、それを過剰なまでに代償しようとする衝動に駆り立てられているということである。物を貪(むさぼ)ること、食べ物を貪ることは、愛情を貪ることの代替行為なのである。 実際、こうした行為を改善させるうえでは、十分な愛情と関心が与えられることが鍵を握る。いくらその行為だけを問題視して改善しようとしても、徒労に終わるだけである。飢餓感があるから貪ろうとするのである。貪る行為だけをいくら止めさせようとしても、無駄なのである。