「新しい認知症観」打ち出し、社会との共生目指す 患者増加予測で政府が初の基本計画
この中で特に注目されるのは(3)の社会参加だ。認知症に苦しむ本人の孤立を防いで生きがいを持って暮らせる環境をつくるのが目的で、ピアサポート活動を後押しする。また(9)の調査については、若年性認知症の人も対象に社会参加や就労支援などの体制を強化するという。 政府はこれまで「認知症施策推進大綱」に基づいて国の認知症対策を進めてきたが、より大きな社会問題になったために同大綱を基本計画に「格上げ」した形だ。計画策定に際しては当事者の意見を反映させている。
発症の15~20年前からたまり始める
厚生労働省は5月に「認知症患者は65歳以上の人口がほぼピークを迎える2040年に584万人となり、60年には645万人に達する。MCIの人は632万人で合計すると1277万人で、高齢者の2.8人に1人に当たる」と発表し、衝撃を与えた。
だが、10月9日に開かれた「日本科学技術ジャーナリスト会議(JASTJ)」の月例講演会で、アルツハイマー病研究の第一人者である東京大学大学院医学系研究科の岩坪威教授は、アルツハイマー病は「現時点では進行してしまうと治すことはできない。しかし今後研究がさらに進めば治療に向けていろいろな可能性が出てくるだろう」との見方を示した。
「日本認知症学会」理事長も務める岩坪氏の専門は神経病理学だが、元は神経内科の臨床医だ。現在は、臨床と基礎の両方の視点から新しい治療薬の可能性に期待を寄せている。岩坪氏によると、認知症とは病名ではなく症状のことで、その原因疾患としてアルツハイマー病など3つがあるという。
同氏の説明では、アルツハイマー病は発症する15~20年も前からアミロイドベータやタウが脳内に少しずつたまり始める。MCIの前にも長い「プレクリニカル期」があるという。「この病気は正常な状態から連続している」と指摘した。
認知の障害が出るのは、大脳皮質の神経細胞が脱落して神経細胞回路が維持できなくなるためで、神経細胞が多少失われても海馬機能は維持できる。しかし、脱落・喪失細胞が3割ぐらいになると障害が出始める。障害は記憶だけでなく、言語機能や空間の認知力、抽象的思考にも及ぶという。