「新しい認知症観」打ち出し、社会との共生目指す 患者増加予測で政府が初の基本計画
早期診断・治療に光明も
政府の認知症施策推進基本計画は、増加が確実視されながらも、社会との共生を目指す前向きな新たな認知症観を打ち出した。この背景には、新たなメカニズムに基づく薬の登場など近年の早期診断・治療の急速な進歩がある。
具体的には、たまったアミロイドベータが固まる前の段階で人工的に作った抗体を結合させ、神経細胞が壊れるのを防ぐ新薬「レカネマブ」が登場したことだ。2023年12月に保険適用され、臨床での使用が始まった。レカネマブはアミロイドベータを1年半で約60%減らし、臨床試験では偽薬と比べて症状の悪化を27%改善した。今年9月には「ドナネマブ」も承認された。新薬への期待は膨らんでいる。
ただ、いずれの新薬も対象はMCIか軽度の認知症患者に限定され、症状の進行を完全に止めたり、脳の状態を元に戻したりすることは期待できない。新薬の効果を得るためのポイントは早期診断だ。視覚的にアミロイドベータの蓄積を確認できる陽電子放射断層撮影(PET)や脳脊髄液検査などの検査が必須で、こうした検査ができるのは大きな医療機関に限られる。レカネマブの場合、3割負担の高齢者でも年間100万近くの費用がかかる。
新薬登場のほか、朗報もある。岩坪氏らの研究グループは5月、アミロイドベータとタウの2種類のタンパク質を血液検査で測定・分析することにより、発症を高い精度で予測できると発表して注目された。実用化への期待は大きいが、岩坪氏によると、米国での研究例も含めて承認例はまだなく、バイオマーカーの実用化には時間がかかりそうだ。
岩坪氏は「(認知症増加の)最大のリスクファクターは社会の高齢化」と言う。新しい薬や早期診断法もまだ課題が残されている。だが、今後開発研究がさらに進めば、衝撃を与えた認知症患者の将来推計も減ってくるはずだ。 内城喜貴/科学ジャーナリスト