ダークエネルギーもダークマターも一挙に解明?「タイムスケープ宇宙論」とはなんだ
(小谷太郎:大学教員・サイエンスライター) 2025年もとっぷりと明けましたがおめでとうございます。みなさんの1年はどのような年になるでしょうか。ちなみに宇宙の観測可能な範囲は1年に3光年ほど広がっているので、2025年に入ってからすでに1兆kmほど奥行きが増えていることになります。 「宇宙の膨張が加速」ってどういうこと? 宇宙というものはいつもこういう調子で、人類がいくら知識を増やしても、それを上回る勢いで拡大し、新たな謎が現れて、全然追いつける気がしません。が、もしかしたら人類が宇宙のトリックをひとつ暴いたかも、という研究発表がありました。 ニュージーランドのカンタベリー大学研究者らによると、宇宙最大の謎とされるダークエネルギーは、実は存在していない可能性がある、というのです。 ■ ダークエネルギーとはなんだっけ? ダークエネルギーという、英語とドイツ語の混じった妙なカタカナ語について説明するには、(1)まず宇宙は膨張していて、(2)さらにその膨張が加速していることについて、説明しないといけません。 100年ほど前に見つかった事実ですが、この宇宙空間は膨張していて、こうしている間にもどんどんどんどん体積が増えています。 宇宙空間には星や銀河が点々と散っています。宇宙空間が膨張すると、星や銀河の間隔はそれにつれて広がっていきます。したがって、遠方の銀河を観測すると、私たちから逃げ散るように遠ざかっていて、しかも遠い銀河ほど速い速度で逃げています。遠方の天体ほど速い速度で逃げているという法則は「ハッブル=ルメートルの法則」と呼ばれ、その比例係数は「ハッブル定数」と呼ばれます。ハッブル定数は宇宙の膨張率を示す数値です。 宇宙空間が膨張しているということは、過去には宇宙はもっと狭かったことになります。逆算すると、138億年ほどさかのぼった時点で宇宙の体積はゼロになります。恒星も銀河も惑星も何もかも、極めて小さな点にぎゅうぎゅう詰めに押し込まれ、超高温・超高密度のどろどろに溶けた状態だったのです。この超高温・超高密度状態からの宇宙の急激な膨張を「ビッグバン」といいます。 宇宙空間が膨張しているという事実は常識に反していて飲み込みづらいですが、宇宙に始まりがあったという結論は、飲み込むのがさらに困難で、魚の骨を丸呑みするより大変でした。今から思えば、宇宙膨張からビッグバンはごく自然に導かれるのですが、1929年に宇宙膨張が報告されてから、1949年に「ビッグバン宇宙論」という言葉が発明されるまで、20年もかかっています。 宇宙膨張を逆算したり、宇宙のふるまいを計算するには、「一般相対性理論」という物理学理論を用います。この理論は時間や空間の膨張や歪み、しわやさざ波をあつかうもので、宇宙膨張の他にも、ブラックホールや重力波やタイムトラベルなどについて議論ができます。 一般相対性理論の方程式は、複雑で非線形で厄介なので、宇宙論の研究者はいくつか仮定を持ち込んで、人間の脳であつかえる程度に簡略化します。宇宙は「一様」、つまりどこの宇宙人から見ても同様の星空が広がっているとか、宇宙は「等方」、つまり北の空も南の空も同様の眺めだとか、物質の圧力は無視できるとか、そうした仮定を使ってどんどん話を簡単にすると、「フリードマン方程式」と呼ばれる方程式が得られます。 フリードマン方程式は、宇宙の大きさがどのように時間変化するかを示す方程式です。この方程式の解として、どこまでも膨張する宇宙とか、途中で減速して潰れてしまう宇宙とか、定常的で時間変化しない宇宙などの、さまざまな宇宙が導かれます。ただし現実の宇宙に当てはまるのはそのうちひとつだけなので、現実の宇宙を観測してどれが正しい解なのか決めるのが、宇宙論研究者のしごとです。 これが宇宙論という研究分野の手法です。