「聖人・孔子」をプロパガンダに利用する中国の茶番 マルクスと孔子の対談動画が物笑いの種に
近年の中国は、孔子学院や孔子平和賞など、孔子の名を冠する国際広報活動を盛んに展開している。この方針について、現代中国に精通する紀実作家の安田峰俊氏は、孔子は中国の知的・文化的優位性をアピールするうえで最も適した人物だと指摘。孔子の利用に躍起になる習近平政権の思惑に迫る。 ※本稿は、安田峰俊氏著『中国ぎらいのための中国史』より一部を抜粋・編集したものです。 中国の動画サイトで公開されている、「マルクスが孔子に会ったとき」の画面 ■閉鎖が相次ぐ孔子学院 中国政府肝煎りの教育機関「孔子学院」の名前は、中国にあまり興味がない人でもご存じだろう。これは2004年以降、中国教育部(文部科学省に相当)傘下の国家漢辦のもとで世界各国につくられた中国語や中国文化の教育機関で、多くは現地の大学と提携する形式が取られた。
だが、単なるパブリック・ディプロマシー(公報文化外交)にとどまらない安全保障上の懸念がある施設だとして、近年は日本を含む西側各国で盛んにやり玉に挙げられている。 もっとも、当初の孔子学院は格安で質の高い中国語を学べる施設として、各国で好評だった。新華社によれば、2018年12月の時点では世界の154の国や地域に孔子学院が548校、簡易版の施設である孔子課堂が1193校も展開し、学生数は187万人に達したという。
日本でも2005年に京都の立命館大学内に設置されたのを皮切りに、早稲田大学など12校の学内に存在する(2024年4月時点)。実のところ、私が過去に日本国内の3校で中国語のオンライン講義を受けてみた限りでは政治的な雰囲気は感じなかったのだが、近年の講師陣の身元を調べると、中国政府と非常に近しい人たちが多いことは事実である。 そのため、2020年夏ごろからは西側各国で孔子学院への警戒論が強まり、校舎の閉鎖が相次いだほか、日本国内でも厳しい目が向けられるようになった。
対して、中国政府は孔子学院の運営母体を便宜上の民間公益団体に切り替えたり、施設の名前を変えたりして運営を続けようとしているという。 ■孔子平和賞、失敗する 孔子の名を冠した、政治色のある中国発の国際プロジェクトはほかにもある。たとえば、2010年12月に中国国内で創設された「孔子平和賞」だ(翌年から主催が香港の団体に引き継がれた)。 孔子平和賞が生まれた契機は、中国民主化運動の精神的リーダーだった劉暁波が、その2カ月前にノーベル平和賞を受賞したことである。当時、中国国内では保守派を中心に平和賞の選出基準が恣意的(反中国的)だとして反発が起き、これに対抗する形で「中国とアジアの平和観と人権観を示す」人物を表彰する新たな国際賞が創設された。