米大統領選、どう“決着”がつくのか 「民意とかけ離れたリーダー誕生」の可能性も 渡辺靖・慶應大教授に聞く
接戦、もつれ……決着はどうつく?
――接戦が報じられています。どの時点で決着がつくのでしょうか。 これまでであれば、選挙当日か、翌日の早い段階でどちらかが敗北宣言して決着がついてきました。ところが、今回はそこで終わらないかも知れません。法廷闘争に発展する可能性もありますし、場合によっては連邦議会が選挙結果を決めるという事態になりかねません。 州の結果は、知事と議会が認める必要があります。逆に言えば、知事と議会で意見が一致しないと、選挙結果が確定できず、選挙人も決まりません。その結果、どちらの候補も過半数の270人に届かないこともあり得ます。そうなると舞台は連邦議会に移ります。 ちなみに、共和党のジョージ・W・ブッシュ氏と民主党のアル・ゴア氏が争った2000年の大統領選では接戦となったフロリダ州の再集計をめぐって最高裁が判断を下しましたが、州知事と議会がそれでいいと受け入れ、決着しました。 ――連邦議会に舞台が移ると、どういうことが想定されますか。 連邦議会の下院が大統領を決めることになります。いまの下院(※議員435人。大統領選と同時に改選されるため状況が変わる可能性がある)は、人数は民主党の方が多いのですが、各州1票になると、共和党が有利なのが26州、民主党優位なのが23州、タイ(同点)がペンシルベニアとなっています。各州1票で共和党が過半数を維持した状態で議会に持ち込まれると、いまの状態だとトランプ大統領が勝利します。 つまり、一般得票数でトランプ大統領が負けて、選挙人でも不利な状況だけど、両陣営とも選挙人270人が獲れないと、連邦議会に持ち込むことによってトランプ大統領が逆転勝利を収めることがあり得るのです。 ――国民の投票と結果にずれが生じます。 さらに、それでも決まらないというシナリオがあります。もつれにもつれて、一番もつれた場合には、新しい議会の下院議長、いまのままでいくとナンシー・ペロシさんという下院議長が大統領代行となり、来年1月20日に就任式に臨むことになります。こうなってくると、とてもではありませんが民意とかけ離れた、かなり正統性の弱いリーダーが生まれる可能性があるのです。 これまでの大統領選では、選挙当日の開票状況ですべてが決まっていましたが、今回は、そこは第一幕に過ぎなくて、もしかすると第二幕、第三幕があるかもしれないということです。 ただ、現実的には連邦議会が決めるというところまではさすがにいかないと思います。これまでのアメリカの歴史の中で下院が大統領を決めたのは1824年が最後で、もし今回そうなったら196年ぶりです。 ――これまでですと、いずれかが敗北宣言をし、それをもって決着がついた形でした。 トランプ大統領はおそらく敗北宣言をしないでしょう。それはずっとしないかも知れない。ただ、トランプ大統領にとって絶対に落とせない州があります。フロリダ州、ペンシルベニア州、ジョージア州などがそれに当たりますが、そこを落とすようだと、他の接戦州はもっと獲れないだろうということで、ムードとして「これはトランプ不利だ」とか、「バイデン優位だ」という情勢は出てくると思います。 ■渡辺靖(わたなべ・やすし) 1967年生まれ。1997年ハーバード大学より博士号(社会人類学)取得、2005年より現職。主著に『アフター・アメリカ』(慶應義塾大学出版会、サントリー学芸賞受賞)、『アメリカのジレンマ』(NHK出版)、『沈まぬアメリカ』(新潮社)など。近著に「白人ナショナリズム」(中央公論新社)がある。