遺贈寄付は人生最後の社会貢献 望む未来や社会の姿を選び取って後世へ
「人生最後の社会貢献」の手段として、遺贈寄付に関心を寄せる人が増えています。遺贈寄付の普及に努めてきた「遺贈寄附(きふ)推進機構」代表の齋藤弘道さんに、遺贈寄付のメリットや寄付先の選び方について聞きました。
「死後の寄付」だから手元のお金の心配は不要
――「遺贈寄付」についてお教えください。 遺贈寄付は、自分の死後に残る財産の全部または一部を公益団体やNPO法人などに寄付をすることです。生前に遺言を書いておくことが代表的な遺贈寄付の方法ですが、そのほかに信託による寄付、生命保険による寄付、死因贈与契約による寄付もあります。 遺贈寄付は、「今」行う寄付ではなく、「将来自分が死亡したとき」に残っていた財産から寄付をするので、手元のお金が減るわけではありません。「老後の生活費が心配で寄付できません」と言う方がいるのですが、「今使えるお金が減るわけではないのでどうぞ自由に使ってください」と伝えています。また、「おひとりさま」で相続人がいない場合、遺産は最終的には国庫に入ってしまいます。遺贈寄付は、死後の財産の使い道を自分の意思で決めることができる方法としても注目を集めています。 ――遺贈寄付をすることによるメリットや魅力は何でしょうか。 社会貢献や生きがいにつながる、ということが一つ大きいでしょう。寄付をする、つまり社会のためにお金を使うということは、望む未来やあるべき社会の姿を選び取る行為です。自分の関心がある社会問題に取り組んでいる公益団体に遺贈寄付をすることは、その活動を支え、自分の生きた証しを残すことになります。 また、社会全体に与える影響も大きいです。今の日本は人口減社会です。2020年の全人口1億2615万人、65歳以上は3603万人ですが、日本の将来推計人口(令和5年推計)によると2045年の総人口は1億880万人、65歳以上は3945万人。つまり、全人口が減少しているのに高齢者は増えるというわけです。 被相続人の死亡時の年齢構成も高齢化しています。平成の時代は「70~80代が亡くなって、50代の人が相続する」というのが一般的でした。令和になり「人生100年時代」と言われるように「80~90代が亡くなって、60代が相続する」ことも増えています。 この“10歳の差”はとても大きいと考えています。50代は子どもが大学生ぐらいで教育費もまだかかり、住宅ローンも残っていてまだまだお金を使う世代。しかし、60代になると子どもは独立し住宅ローンも返し終わっている。会社員生活も終わりが見えてきた頃で、そんなにお金を使わない。つまり、90代の人が亡くなって60代の人が相続して、そのまま財産を貯め込んだまま30年後に亡くなって……と高齢者の間で資金循環をしてしまうのです。これを「老老相続」と言います。高齢者の世代からお金が外に出ていかないこの状況は、日本経済にとっても大変な打撃を与えます。 日本の個人金融資産は2000兆円を超えていますが、このうち年間50兆円が相続による名義の書き換えや換金で動いていると言われています。しかし、その大半が老老相続で高齢の相続人へ引き継がれ、消費や投資に向かわない財産になっている。この50兆円の行き先のうち、相続人から遺贈寄付の方に1%でも動いていけば、5000億円がNPO法人や公益法人に活きたお金として寄付され、社会課題の解決に寄与するわけです。現在の寄付総額が5000億ほど(ふるさと納税を除く)なので合わせれば倍になるということを考えれば、社会全体にとても大きなインパクトをもたらしてくれそうだと思いませんか。