遺贈寄付は人生最後の社会貢献 望む未来や社会の姿を選び取って後世へ
最初の一歩はエンディングノートから
――齋藤さんが遺贈に興味を持った理由や、ご自身のキャリアについて教えてください。 信託銀行で遺言信託の業務を担当していたとき、遺贈寄付のご依頼を多く担当していました。しかし、相続人である親族による反対によって遺贈希望者の意思が実現されないケースをよく目にしていました。こうした課題を解決するため、2014年に弁護士、税理士らとともに勉強会を立ち上げました。これが、後の全国レガシーギフト協会となります。そして、転職先の信託銀行で遺言信託業務を立ち上げた後、2018年に遺贈寄附推進機構を設立しました。現在は、遺贈関係のコンサルティング業務と普及活動に専念しています。 現在、包括遺贈や不動産遺贈を受け入れられる団体は少数のため、そこに遺贈寄付が集中してしまっているという課題もあります。そこで、公益団体などに対して包括遺贈や不動産の遺贈も受け入れられる体制づくりのコンサルティングや相談を受け付けています。 寄付者の方は「善意の寄付だからどんな財産でも受け取ってもらえる」と思っていたり、ご自身の希望にかなう団体を探しきれなかったりするケースも多いです。遺贈寄附推進機構では、遺贈寄付者の希望をヒアリングし、寄付先選定のサポートやマッチングなども行っています。 弁護士や税理士、司法書士さんなど遺言の作成業務に携わっている専門家との連携にも力を入れています。遺贈寄付は、通常の遺産相続に関する法律や税制の知識だけでなく、包括遺贈やみなし譲渡課税など複雑な問題もあります。遺贈寄付をしたいと思った人が、弁護士さんの元を訪れたにもかかわらず「よくわかりません」「手続きが大変ですから、やめておいたほうがいいですよ」と言われてしまっては元も子もありません。相続業務に日頃から関与している士業の方に遺贈寄付をもっと知っていただくことで、遺贈寄付がさらに広がっていくはずだと考えています。 ――最後に、遺贈に関するメッセージをお願いします。 「遺言を書いてみましょう」と言われても、なかなか踏み出せないと思います。そこで、遺言と違って法的効力はないけれども、まずはエンディングノートを書き始めることからおすすめします。 エンディングノートは、これから生きるご自身のために書くものでもあります。突然倒れたり事故に遭ったりすることは誰にでも起こり得ることです。そんな万が一のときのために生命保険に入るような感覚で、「持病の有無」「かかりつけの病院」「常用薬」などの欄から埋めてみてください。すべての欄を書く必要も、完成を目指す必要もありません。お墓の欄や病院の欄など、ご自身が一番大切だと思っているところだけ書くので構いません。 前向きな終活を始めることが、その先の相続を考える一つのきっかけになります。そこで遺贈という選択肢に結果的につながっていけば良いなと思っています。 (記事は2024年6月1日現在の情報に基づいています。) 齋藤弘道さんプロフィール 「遺贈寄附推進機構」代表取締役、「全国レガシーギフト協会」理事。 みずほ信託銀行の本部にて遺言信託業務に従事し、営業部店からの特殊案件やトラブルに対応。遺贈寄付の希望者の意思が実現されない課題を解決するため、弁護士・税理士らとともに勉強会を立ち上げ(後の全国レガシーギフト協会)。2014年に野村信託銀行にて遺言信託業務を立ち上げた後、2018年に遺贈寄附推進機構株式会社を設立。日本初の「遺言代用信託による寄付」「非営利団体向け不動産査定取次サービス」等を次々と実現。
堤 美佳子