森見登美彦「自身のスランプをホームズの苦悩に投影させ、書き上げたことで区切りがついた」
2023年にデビュー20周年を迎えた作家・森見登美彦さんが、書き下ろしの新著『シャーロック・ホームズの凱旋』を上梓した。実に3年半ぶりの刊行となる。世界的な人気キャラクター「シャーロック・ホームズ」をモチーフとした小説を執筆した理由、本書に反映された自身の想いについてうかがった。(構成◎碧月はる 撮影◎本社 奥西義和) 【写真】森見さんの仕事場のコウペンちゃんたち * * * * * * * ◆「シャーロック・ホームズ」との出会い 準公式認定されているシャーロック・ホームズの誕生日は、1月6日。奇しくも、森見さんと同じ誕生日である。ホームズを主人公とした小説を上梓するにあたり、今年はどのような誕生日を過ごされたのか。『シャーロック・ホームズ』シリーズとの出会いもあわせて振り返る。 今年の誕生日は、奈良の若草山中腹にあるホテルで食事をしながらお祝いしました。僕の誕生日が結婚記念日でもあるので、妻がランチを予約してくれたんです。 今回、『シャーロック・ホームズの凱旋』という作品を刊行することになったのですが、僕自身が『シャーロック・ホームズ』シリーズと出会ったのは子どもの頃でした。 親戚から、『ズッコケ三人組』などを含むいろんなジャンルの本が入った箱をもらったんです。その中にホームズ・シリーズも入っていて、それが生まれてはじめて読んだミステリー作品でした。
◆ホームズをスランプに陥れる ちょうどその時期にテレビドラマでもシリーズが放映されていたので、原作とドラマ両方で楽しんでいましたね。子どもの頃は、台詞を全部暗記するくらいドラマに釘付けになっていて、ホームズよりも僕が先に台詞を言ってしまうので親に嫌がられました。(笑) だから、本作を執筆している最中も無意識でドラマの台詞が出てきてしまって。原作をベースに書いているので、そこはできるだけ削るように心がけました。 とはいえ、僕自身はシャーロキアンといえるほど詳しいわけでもないんです。なので、「ホームズが名探偵で、ワトソンが相棒」という点さえわかっていれば、十分楽しめる物語になっていると思います。 それにしても、「シャーロック・ホームズ」の固有名詞は本当に強いですよね。これまでもいろんな人がシャーロック・ホームズを物語に登場させてきたけれど、これだけいろんな描きかたをされてきた人はいないのではないでしょうか。 『シャーロック・ホームズの宇宙戦争』では、宇宙人と戦ったりもしていますしね。だから、僕がホームズをスランプに陥れたところで大問題になることもないし、怒られることもないだろう、と。(笑) ホームズはキャラクターの自由度がすごく高いんですよ。だからこそ、今回はこういう思い切った設定で執筆することができました。