江ノ電がシェアサイクル事業を展開する狙いとは? オーバーツーリズム対策から周遊促進まで、担当者に聞いてきた
神奈川県藤沢市と鎌倉市を結ぶ江ノ島電鉄。地域、そして観光の足として、湘南エリアの公共交通を支えている通称「江ノ電」は、2021年4月にOpenStreetが提供するプラットフォームを活用したシェアサイクル事業「SHONAN PEDAL」を開始した。現在では、沿線だけでなく、周辺自治体などとの連携で、自転車ステーションを拡大。湘南エリアに加えて、県央や横浜でも「SHONAN PEDAL」のブランドで事業を展開している。営業距離10キロほどの鉄道会社がシェアサイクル事業を展開する狙いを取材した。
長年にわたるオーバーツーリズム対策
鎌倉から江ノ島にかけての湘南エリアでの「オーバーツーリズム」は、今に始まったことではない。長年、鎌倉で紫陽花が見頃を迎える6月初旬から夏の海水浴シーズンにかけて来訪者が集中。その課題に対して、江ノ電は行政や観光協会とともにさまざまな解決策を模索してきた。 江ノ島では、例年11月下旬から翌年2月末にかけてイルミネーションイベントを開催。「ふじさわ江ノ島花火大会」の開催時期を10月に移すなど、需要の季節分散化に向けた企画を打ち出してきた。江ノ島周辺でイベントを増やす目的には、エリアの分散化の意図もある。江ノ電マイクロモビリティ部専任部長の小坂渉氏は、「鎌倉駅から長谷観音や鎌倉大仏の最寄りとなる長谷駅との往復が顕著で、ここだけピンポイントで混んでしまう。その流れを西側の江ノ島の方に誘客していきたいという考えがあった」と明かす。 さまざまな仕掛けの結果、「冬や夜間の来訪者が増え、逆に冬の方が需要が高くなる傾向も出てきた」(小坂氏)。 ところが、昨今、再び「オーバーツーリズム」の課題が深刻化してきた。要因はインバウンドの急増だ。特にアニメ映画「スラムダンク」の影響は大きい。舞台の一つとなった鎌倉高校前駅には、ここ数年多くのインバウンド旅行者が訪れ、混雑が問題化。警備員を常駐させ、人流整理をおこなっているものの、地元住民との共存で課題が浮き彫りになっている。 江ノ電では、全駅でタッチ決済を導入し、鎌倉市などとともに混雑期の住民優先乗車の実証をおこなうなど、駅混雑の回避に向けた新たな取り組みを展開してきたが、オーバーツーリズムの根本的な解決には至っていない。