江ノ電がシェアサイクル事業を展開する狙いとは? オーバーツーリズム対策から周遊促進まで、担当者に聞いてきた
移動の選択肢を増やし、混雑緩和へ
そのなかで、注目したのが新たな移動手段としてのシェアサイクルだ。小坂氏は「観光の面で言えば、たとえば、鎌倉駅/長谷駅間の混雑具合を分散できるのではないか。新たに移動手段を提供することで、地元の人たちの役にも立つのではないか、と考えた」と話す。観光と地域、双方の足としてのシェアサイクル。「江ノ電として、移動の選択肢を用意することで、江ノ電だけでなく、バスや道路の混雑緩和にも一役買える」のが目的だ。 こうした背景から、江ノ電は2021年4月からOpenStreetが提供するシェアサイクルプラットフォームを活用し、「SHONAN PEDAL」のブランド名でシェアサイクル事業を始めた。OpenStreetの専用アプリ「HELLO CYCLING」で自転車の予約・貸出・返却ができる。当初は、住民の日常使いや観光客の短い移動を想定し電動アシスト付き自転車をステーションに配置。その年のゴールデンウィークには、より広域での周遊にも適したスポーツタイプe-bike「クロード」の提供も開始した。 2024年4月には、神奈川県、平塚市、鎌倉市、藤沢市、茅ヶ崎市、寒川町、大磯町、二宮町が構成する湘南地域自転車観光推進協議会と連携協定を締結。湘南エリアでシェアサイクル事業を展開し、シェアサイクルによる周遊観光促進、二次交通のネットワーク構築、利用者の利便性向上を進める取り組みを始めた。さらに、「SHONAN PEDAL」は、横浜市南部、海老名市や相模原市の県央まで拡大している。 自治体や観光協会などと連携することで、公有地を活用したステーションの数も増加。並行して、「SHONAN PEDAL」の知名度が上がるにつれて、民間の土地の提供も増えているという。2024年4月時点で、ステーションは鎌倉市で57ヶ所、藤沢市で134ヶ所、ラック数は鎌倉市で299個、藤沢市で805個まで増えた。
データから利用者の行動が見える
専用アプリ「HELLO CYCLING」のデータからは、利用者のさまざまな動きが見えてくる。利用時間を追っていくと、地域ごとの特色も表れてくる。一例として、鎌倉市と藤沢市は隣接しているが、その利用には違いがあることも分かってきた。 OpenStreetによると、2024年4月の鎌倉市の利用者数は約6500人、利用回数は約1万4000回。1ヶ月間の総利用回数を100%とした時の各曜日の利用回数比率を見ると、土曜日が22.6%、日曜日が18.4%と高く、逆に平日は全国平均を下回っている。 一方、藤沢市の2024年4月の利用者数は約1万2000人、利用回数は約3万5000回。利用回数比率では、土曜日が18.4%、日曜日が15.1%で、鎌倉市の比率よりも低く、平日の利用はほぼ全国平均と同率となっている。 また、利用単価を見ると、鎌倉市の方が藤沢市よりも高い。 このようなデータから、小坂氏は「鎌倉市では観光客の利用が多く、藤沢市では日常使いの利用が多いことが読み解ける」と分析する。藤沢市については、観光の足だけでなく、今では都市計画の一部としてシェアサイクルを活用するケースも増えていることから、平日利用が増加している傾向にあるという。 江ノ電は、移動の利便性を高める実証として、2024年のゴールデンウィーク期間(5月3日~5日)に、鎌倉市役所などに臨時ステーションを設置した。そのデータからも面白い傾向が見て取れたという。 たとえば、鎌倉駅から鎌倉大仏まで行く場合、江ノ電で長谷駅に行くか、由比ヶ浜通りをバスで行くかが一般的なルートだが、SHONAN PEDALのデータを見ると、より内陸の市役所から市役所通りを走り、長谷大谷戸経由で向かうルートで利用されているケースが多かったという。小坂氏は「自転車だと、こういうルートも使われるという発見があった。多少なりとも、江ノ電や由比ヶ浜通りの混雑緩和にはつながっているのではないか」と手応えを示す。 そのほか、15分以上鍵をかける一時駐輪では、銭洗弁財天、稲村ヶ崎などの近隣だけでなく、江ノ島や鵠沼海岸まで足を伸ばすデータが明らかになったほか、カレーの有名店「珊瑚礁本店」など特定の場所でも一時駐輪が多く見られたという。 OpenStreetによると、最近ではインバウンド客、特に中国人旅行者の利用も増えているという。今年3月末からは、Alipayで「HELLO CYCLING」のミニアプリの提供を開始した。Alipayでの平均単価は通常の1.5倍~2倍になっていることから、それだけ1回の利用で長時間乗っていることがわかる。 また、湘南エリアだけでなく、大阪、京都などで複数地域での利用も見られることから、ミニアプリを活用した周遊にもつながっているのではないかと推察している。