2024年の出来事を堤伸輔が振り返る──「大谷翔平」「北口榛花」「K-POP」ほか、ライブエンタメ“超・私的”5大ニュース
パリ五輪の金メダリストたち/4位
GQの「MEN OF THE YEAR」の授賞式&パーティーが12月初旬に執り行われたが、そこには、パリオリンピック・パラリンピックで金メダルに輝いた3人のアスリートの姿があった。スケートボードの堀米雄斗、陸上やり投げの北口榛花、車いすテニスの小田凱人の3選手だ。 最終滑走での奇跡的な大逆転で2大会連続の金を獲った堀米のオーラは、華やかなメンイヤ受賞者たちの中でも際立っていた。また、国枝慎吾のあとを継いで頂点に駆け上がった小田の自信に満ちた物腰も印象的だった。 そして北口。とうとう日本人の女子が、陸上のフィールド種目で五輪金メダルに輝く日を、彼女は招き寄せたのだ。しかも、投擲という、パワーとスピードともになければ勝てない種目で。これまで多くの国際大会で最後の6投目でせり勝ち「逆転の女王」の名で呼ばれてきた北口だが、8月10日の決勝では1投目で他を圧する65m80の好記録を出し、そのまま勝ち切った。どんなにエネルギー溢れるアスリートなのだろうと思っていたら、黒のドレスに身を包んだ彼女は、とびきり明るくチャーミングだった。そして、2025年に東京で開かれる世界陸上では「70m投げたいです!」とにこやかに宣言するのだった。
K-POP今年も大盛況/5位
ひと昔前、プロ野球のシーズンが終わると、私の知人のあるドーム球場の経営者は「どうやってハコを埋めるか」に苦心すると語っていた。時代は変わった。去年も書いたが、いわゆる5大ドームにはK-POPグループのライブツアーが入るようになり、ふと気づくと東京も大阪も福岡も、同日にドームでK-POPライブという週末も珍しくなくなった。 デビューしたてのころはホールを埋めるのがやっとだったグループが、アリーナに進出し、そしてドームで5万人規模の観客を集める。Stray KidsやSEVENTEEN、BLACKPINKにTWICEといった男女グループがトップを争い、LE SSERAFIMやNewJeansのようなデビューから数年以内のグループもあっという間にスターの座に上り、欧米でも人気を獲得している。アメリカのハイウェイを走っていたら、あるグループの巨大なビルボードが道路脇にそびえ、ロサンゼルスでのライブ開催を告げていた。 人気が高まると、ファンクラブに入っていても、ライブチケットを取るのが難しくなる。一般会員、モバイル会員、ダブル会員など、いくつもの枠を使って取りにいっても、“全敗”に泣くことも少なくない。東京は抽選にかすりもせず、ようやく当たった名古屋に遠征などといったことは、推し活をやっている人なら当たり前だ。 あるグループ単独のほかに、韓国のテレビ番組とつながった、いくつものグループが出るライブもある。各メンバーを追う“チッケム(直カメラ)”の機材を抱えたスタッフたちもステージに上がり、ダンスの隙間を縫って映像をソウルに送る姿もよく見る。J-POPのステージ運営とはかなり違う感じだ。 K-POPのダンスは素晴らしく、洗練度を高めているが、不満に思うことも。バックダンサーズの使い方だ。ドームだとステージから遠い席になることもあるが、バックダンサーたちに紛れて、肝心の“推し”がよく見えないのだ。また、衣装も、グループとバックがどちらも黒系だったりと、ひと目で区別がつきづらいこともある。バックダンサーズはステージを盛り上げるために重要な存在だが、もうひと工夫ほしいと感じることが多い。 音響も、ライブ初日だとバックの音が大き過ぎたり音割れしたりで、肝心の歌唱がよく聞こえないことがある。その点、J-POPの人気グループSnow Manの12月のライブはさすがだった。東京ドームの天井から下がった巨大なスピーカーの音響調整がよくて、聴き心地がよかった。そのすぐ前、11月に世界ツアーの途中で開かれたStray Kidsの東京ドームライブも見たが、同じ条件での比較はできないものの、観客ファーストの演出・運営という点で、人気を極めるK-POPにもJ-POPから学べることはまだまだあると感じた。 (2024年12月17日記)
堤伸輔 1956年、熊本県生まれ。1980年、東京大学文学部を卒業し、新潮社に入社。作家・松本清張を担当し、国内・海外の取材に数多く同行する。2004年から2009年まで国際情報誌『フォーサイト』編集長。2020年末に新潮社を退社。BS-TBS『報道1930』、テレビ朝日の『楽しく学ぶ!世界動画ニュース』『中居正広の土曜日な会』などの番組でレギュラー/ゲストの解説者・コメンテーターを務める。 文・堤 伸輔 編集・神谷 晃(GQ)