ドイツは”もうダメ”かもしれない…既存政党への不満が高まる中、権力闘争に明け暮れるかつての”優秀な産業国”の惨状
はたして総選挙の勝者は?
AfDとBSWは確かに両党とも、既存の「カルテル政党」の打倒、ロシアとの交渉再開、ウクライナ戦争の1日も早い終結を掲げ、また、エネルギー政策の修正を求めるなど、共通点が多かった。ただ、AfDはBSWの本質について、かなり懐疑的だった。 BSWはいざとなれば、CDUとも社民党とも組むオールマイティーとして、最終的にドイツを内部から社会主義の国に変革していこうとしているのではないかと疑っていた。そして、案の定、現在のチューリンゲン州では、それが実行に移されているようにも見える。いずれにせよ、AfDとBSWの連立は、結局は非現実なシナリオだと私は思っている。 さて、チューリンゲン州の連立政権成立後の現象が興味深い。BSWが州の与党に加わると、支持率が急激に下降し始めたのだ。支持者にしてみれば、ドイツの政治を変革するための希望の星であったBSWが、主張がまるで違う既存政党の下に、しかも、彼らの過半数を満たすために利用されたような形で喜んで参入したことに失望したのだろう。 おそらくそれが原因で、直近の世論調査では支持率わずか4%。来年の2月23日はおそらく繰り上げ総選挙となるが、ドイツには5%条項があるため、このままではBSWは国会で議席を持つことができない。党首のヴァーゲンクネヒト氏が、AfDを反民主主義政党のように言ったことも、AfDとの連立を期待していた多くの支持者をガッカリさせたと思われる。 では、来たる総選挙の勝者は誰になるのか? CDUではメルツ党首が、自分が次期首相と思い込んでいるが、選挙は水物。それにメルツ氏は国民の人望が極めて薄い。
権力闘争に明け暮れるドイツ
一方、社民党はショルツ首相を引き続き首相候補として擁立すると決めたが、ショルツ氏の人気ははっきり言ってゼロである。そこで社民党内では、ショルツ氏では選挙に勝てないとして、現国防相のピストリウス氏を立てようという声が高くなっていた。 そのピストリウス氏は当初、「自分は国防相にとどまる」と言ったが、すぐにそれが、「現在の状況で確実に言えることは何もない。自分が唯一言えるのは、ローマ教皇になることはないということだけだ」と変わり、首相候補になることを仄めかしたものの、2日後には、「私は首相候補としては立たない。これは私の意志である」と先の言動を再び翻した。 「これは私の意図である」という文言が、あたかも「これは私の意図ではない」と言っているように聞こえた。ショルツ氏は何が何でも首相でいたいらしい。ただ、有権者はそれを望んでいない。 一つ、ショルツ氏にチャンスがあるとすれば、緑の党もCDUも自民党も、ウクライナにはお金だけでなく、ロシア攻撃用の長距離巡航ミサイルを供与すべきだと言い出しているのに対して、それを拒絶し続けていることだ。ドイツ国民は、戦争拡大を望んでいないので、その点だけはショルツ氏を評価している。また、戦争の終結はAfDとBSWの強い意志でもあるため、総選挙はかなりの混戦となるかもしれない。 それにしても、世界情勢が緊迫している現在、政治家が内政も外交もほったらかしで権力闘争に明け暮れているドイツは、一体どうなるのか。かつての優秀な産業国が、エネルギー不足、産業の空洞化、倒産の増加、治安の悪化と、極度に落ちぶれている状況に、私は今も慣れることができない。しかも、どこを見ても希望が見えてこない。 この混沌の元を作ったのはメルケル前首相で、ショルツ首相はその悪い部分を継承し、さらに悪化させたと私は思っている。そのメルケル氏の自伝が11月26日、世界30ヵ国で同時出版される予定だ。タイトルは『自由』。今のドイツにまるでふさわしくない、明るく皮肉なタイトルである。 【さらに詳しく】GXで疲弊したドイツの「惨状」が想像以上にひどい…日本も他人事ではいられない「航空業界の異変」
川口 マーン 惠美(作家)