「結婚式といえば着物でしょ」という“常識”を桂由美さんはどうひっくり返していったのか 超貴重な証言録
「初」のイベント 大盛況
私の仕事にはよく「初」の文字がついて回りました。日本初のブライダル専門店を開いた翌年の1965年、日本で初めてブライダルのファッションショーを行いました。 パリのオートクチュール(高級注文服)のファッションショーではウェディングドレスが登場しますが、いつも最後の1点だけです。 ウェディングドレスだけを見せるショーを行えば、女性には必ずそれぞれに似合ったドレスがある、ということをわかってもらえると思ったのです。 とはいえ、多くの人の話題に上らなければ観客は集まりませんし、ドレスは普及しません。そこでひらめいたのが、各界のスターを登場させることでした。何人も出れば、「百聞は一見にしかず」で、私の考えがわかりやすく、しかも明確に伝わると踏んだのです。 選んだのは、当時話題の女優や歌手、モデルで、草笛光子さん、緑魔子さん、稲垣美穂子さん、九重佑三子さん、入江美樹さん、河原日出子さん、三富邦子さんの7人。出演交渉もすべて一人で行いました。 また、このようなイベントは、マスコミの協力なしにはできません。そこで、マスコミ各社にブライダルファッションショーの招待状を発送しました。すると、新聞社や雑誌社からじゃんじゃん電話がかかって、対応に追われました。 いずれも「ブライダルって何ですか」という質問でした。中には「プライダル」と読み違える人までいましたが、笑うに笑えません。マスコミ関係者が「ブライダル」という言葉を知らないのは、一般の人は全く知らないことではないのか。不安が募り、知り合いのファッション評論家、林邦雄さんに電話で相談しました。 すると林さんは「新しいことを始めるのだから、名前も新しいほうがいい。みんなが何? と話題になるぐらいがいい」と励ましてくれました。 会場は、できたばかりの東京のホテルニューオータニ芙蓉の間。タイトルは「7人の個性をデザインする」。7人7様のウェディングドレスをデザインしました。初挑戦ゆえ、着付けやらメークやらで舞台裏はてんやわんや。無事終わった時には腰が抜けそうでした。 中でも話題を集めたのが、ボーイッシュな九重さんが着たドレスです。当時流行し始めたミニ丈をいち早く取り入れたデザインでした。 2回行ったショーには、計1500人の人が詰めかけました。会場は熱気に包まれ、私の不安は杞憂に終わりました。