西洋絵画では、騎士や戦士が「岐路に立つ」様子が多く描かれた。ラファエロ『騎士の夢』で表現された<若者への教訓>とは
長きにわたって人々に鑑賞されてきた西洋の名画には、薔薇やリンゴなど、よく描かれるシンボルがあります。このようなシンボルについて、ベストセラー『怖い絵』シリーズの作者であるドイツ文学者の中野京子さんによると「ちょっとした知識があれば、隠された画家からのメッセージを探りあてることができる」とのこと。そこで今回は、中野さんの新著『カラー版-西洋絵画のお約束-謎を解く50のキーワード』から、西洋絵画をより深く読み解く手がかりを一部ご紹介します。 【絵画】ヴィクトル・ワスネツォフ『岐路に立つ騎士』 * * * * * * * ◆分かれ道 「岐路に立つ」という言葉がある。岐路とは道が分かれる場所だ。 人生の、運命の、重大な分かれ道に立ち、どちらを選ぶか決断を迫られる状況が比喩的に表現されている。 さまざまな絵が描かれてきた。ラファエロ作『スキピオの夢』(別名『騎士の夢』)が、小型ながらよく知られている。 古代ローマ軍の甲冑を身につけた若い騎士が、道端でうたた寝している。 上半身と下半身を分けるかのように、彼の背後には細い木が立つ。 右(足元)には着飾った美女がいて、ギンバイカの花を差し出す。背景は豊かな田園だ。 一方、左(頭部)には質素な身なりの女性が正義のシンボルの長剣と書物を持ち、背景は険しい山岳。
◆若者への教訓画 夢の中で騎士は迷っているのだろう。 いや、現実に迷っていたからこそこんな夢を見たのだろう。 快楽と富裕が約束された生活を送るか、文武両道の騎士となるべく厳しい研鑽(けんさん)を積むか。 楽な道か、過酷な道か。これは若者への教訓画でもある。 似たような状況で主人公だけが別人、という絵を、イタリア人画家アンニーバレ・カラッチが『分かれ道のヘラクレス』で描いている。 ギリシャ神話の英雄が「悪徳」と「美徳」の間でしばし迷う図である。 日々刻々決断を下さねばならない戦士こそ、このテーマの主人公にふさわしいと思われているのだろう。