西洋絵画では、騎士や戦士が「岐路に立つ」様子が多く描かれた。ラファエロ『騎士の夢』で表現された<若者への教訓>とは
◆岐路に立つ騎士 19世紀のロシア人画家ヴィクトル・ワスネツォフが描いた『岐路に立つ騎士』もそうだ。 不吉な色に染まる夕焼け空の下に、果てしない荒野が広がっている。 白馬に乗った騎士が進んできて、大きな石板の前で立ち止まったところだ。 兜をかぶり、鎖帷子(くさりかたびら)を身にまとった中世の騎士である。 赤い長槍を握り、背には円形の盾を背負い、矢筒も携えている。
◆石板の文字 騎士は石板の文字を読む。 そこには、「左に行けば富を、右に行けば妻を、まっすぐ行けば死を得る」と記されている。 カラスが低く飛び、石板を墓石のように感じさせる。 それを補強するかのごとく、手前の草むらに人間と馬の頭蓋骨がころがっている。 愛馬はうなだれる。騎士の迷いを察知したからだろうか。 それとも戦場での死を覚悟した騎士の心を知ったからだろうか……。 ※本稿は、『カラー版-西洋絵画のお約束-謎を解く50のキーワード』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
中野京子