【中継録画】文楽・人間国宝の豊竹嶋大夫さん 引退会見全文
浄瑠璃「辛いのに大好きなんです」
──今までの舞台の中で特に印象に残ってる舞台とか教えて頂きたいんですけど 嶋大夫:印象に残っているというもので、私が21歳の時に四代目の呂大夫の興行で語らせて頂いたこと。大阪、東京、名古屋で披露していただきました。この時の思い、もう夢中で公演をやったんですけど、その、今になって思い出としたら一番強烈ですね。まだ21歳くらいですから。あんまり楽しい、浄瑠璃ってあんまり楽しい思い出はないんです。本当に。辛い思い出しかない、と思います。 みんなそうだと思うけど。あの時はみんな喜んでくれたんだとか、そんなことはないんで辛かったことばっかりの思い出が、皆さん良い思い出の方をお尋ねになるんでしょうが、やっぱり辛い方が、これはいつまでたっても今でもそうですが、年いけばいくほど辛くなってくる。わからない時は幸せです。わかりかけたら夜寝られない日々は何日もあります。まぁ宿命ですね。 ──辛い中で大夫を今まで続けてこられたのはどういうものがあってでしょうか。 嶋大夫:辛いのに大好きなんです。浄瑠璃が大好きなんです。語ると辛いんですが、浄瑠璃そのものが大好きなんです。大好きだから15.6の時からこんな厳しい世界入って、途中でいっぺん10年ほど去りましたけど、それでも出てくるのが浄瑠璃なんです。だから、下手の横好きとかいうことわざありますけど、上手でねえ考え抜く方は体が持たないですよ。おそろしく難しいですから。化粧もしませんし衣装も着ませんし、体ひとつ口先で仕事するんですから、相当難しいことですね。