【中継録画】文楽・人間国宝の豊竹嶋大夫さん 引退会見全文
大阪公演はもう一度公演の演目を立て直し
司会:ありがとうございました。続きまして私ども独立行政法人、日本芸術文化振興会の水野英二理事より、ごあいさつを申し上げます。 水野:嶋大夫師匠は、大夫の最高峰の切り場語りとして、文楽をけん引してこられました。「本朝廿四孝の十種香の段」それから「鷓山姫捨松 中将姫雪責の段」などですね、艶のある語りは他の追随を許さないすばらしいものでございました。また「双蝶々曲輪日記」の「橋本の段」ではですね、駕籠かき甚衛と橋本治部右衛門という2人の老人がお互いの子供を救うために苦悩するという非常に難しいじだんを見事に語られましたことは皆様記憶に新しいことかと存じます。 一方で夏休みの親子劇場でございますけれども、木下順二作の戦後の新作「うりこひめとあまんじゃく」の語りには定評がございまして、我々大人だけでなく、小さなお子様たちにも文楽の楽しさを伝えていただけたとおもいます。このように舞台での活躍はもちろんのことですが、後進の指導にも積極的に取り組まれ弟子の育成はのみならず、多くの大夫、三味線弾きの指導をされ、これからの文楽にはなくてはならない存在でございます。師匠から引退のお話を頂いたのはごく最近のことでございまして、突然の申し出に正直ビックリいたしましたが、師匠の強いお気持ちを尊重させていただくことといたしました。 日本芸術文化振興会では、師匠の長年のご功績に感謝して、できうる限り引退公演を盛り上げて師匠に有終の美を飾っていただきたいと思います。引退をされた後も指導者として文楽に残っていただき、後進の育成をお願いしたいと思います。なお、発表間近でございました大阪公演はもう一度公演の演目を立て直して引退公演の発表をさせて頂く予定であります。
引退考えた時、一番最初に浮かんだのは弟子の顔
司会:それでは豊竹嶋大夫師匠にごあいさつを頂戴します。 嶋大夫:皆様お忙しい中、ご足労いただきまして、わたくしの引退のごあいさつをさせていただきます。心より感謝いたしております。長い間にわたりまして、皆様からも多大のご支援引き立てを頂きましたことを厚くあつく御礼申し上げます。ありがとうございました。 ただいま、お話にございました引退いたしましても、私は浄瑠璃に関係するよりほかに生きる道はございません。皆様方に変わらないご指導、ご鞭撻をお引き立てのほど、お願い申し上げる次第でございます。 また、言ってみれば身内でございますが、門弟たちも非常によく私の舞台を支えてくれました。私の引退の話にはさぞかしびっくりしていることとおもいますが、私は引退を考えたとき一番最初に頭に浮かんだのは、弟子たちの顔でした。弟子たちの顔が浮かんできまして、あぁみんなどういう思いでいてくれるかなぁと。私はこれからも引退しても、今までのように口うるさく、厳しく、指導はさせてもらえるのかなぁ。みんなよろしくたのみますね、という思いです。 大変重い責任だと自分でも思っております。自分だけが引退すればいいという問題ではないので、お預かりした弟子たちを私の命の続く限りは少しでも指導するのは当たり前なんですが、少しでも行く末を見守らせてもらって、早く立派な大夫に育ってくれるように。 それは常々思っていることなんですが、このたびのような状況になりますと、ひとしお弟子たちの顔が浮かびます。やっぱり私が元気で弟子たちと一緒に文楽座で頑張っていきたいんです、浄瑠璃の修業には果てはございませんので、全力を尽くしてみんなで修業に励んでいきたいと思います。私はなんとかがんばっていきますから、弟子さんたちのことをどうぞよろしくひとえにお願い申し上げる次第でございます。 私のつたないお礼の言葉でございますが、どうぞご理解くださいますように、本日はありがとうございました。御礼申し上げます。