2021年の箱根駅伝に“山の神”は降臨するのか
新春を彩る箱根駅伝(来年1月2、3日)の区間エントリーが今日29日に行われる。注目は往路の5区だ。箱根駅伝は17年大会から往路の小田原中継所が元の位置に戻り、山上り5区の距離が最長23.2kmから20.8kmに短縮した。新コースで4大会を終えたが、いまだ「山の神」は現れていない。 前回大会は順位変動も活発ではなかった。最も順位を押し上げたのは明大の鈴木聖人(現3年)で9位から5位。苦しい走りになった選手でも順位を3つ落としただけだった。最長区間時代より明らかに選手間のタイム差が小さくなっている。 前回は3人が区間新となったものの、区間賞を獲得した東洋大・宮下隼人(現3年)のタイムは1時間10分25秒。かつて「山の神」と呼ばれた選手たちと比べて記録水準はずいぶんと低い。「山の神」はもう現れないのだろうか。 今回、最も「山の神」に近いといえるのが、その東洋大・宮下だ。山梨県富士吉田市出身の宮下は、小学生のときに東洋大・柏原竜二(現・富士通=競技引退→社業に専念)の活躍を見て鉄紺軍団のファンになった。高校時代は全国大会の出場がなかったが、大学入学時から「5区」を意識していた生粋のクライマーだ。今季は10000mで28分37秒36の自己新をマークして、全日本大学駅伝の最終8区でも前年のタイムを1分20秒も短縮している。この1年間で走力は確実についた。 加えて前回は14位でタスキを受けて、前を走る選手とのタイム差もあった。今回は前回の経験を生かすことができるうえ、モチベーションがあがるような位置でタスキを受け取ることができれば、大幅にタイムを短縮する可能性があるだろう。 そのなかで宮下は、「柏原さん以来5区の2年連続区間賞は出ていないので、それだけ5区は難しい区間です。まずは前回自分が出したタイムを更新したいと思っています。それ以上は深く考えないようにして、とにかく自分の出せる力を発揮したいです」と冷静だ。 たしかに5区は気負うと難しい区間といえるかもしれない。過去に「山の神」と呼ばれた順大・今井正人(現・トヨタ自動車九州)は3年連続、東洋大・柏原は4年連続で区間賞を獲得した。しかし、青学大・神野大地(現・セルソース)は3年時に驚異的な区間新を叩き出したが、4年時は前年から3分ほどタイムを落として区間2位。日本人トップは確保したが、日大のダニエル・ムイバ・キトニー(現・TRACK TOKYO)に53秒差で敗れている。 前回も「山の神」候補として真っ先に名前が挙がった國學院大・浦野雄平(現・富士通)は自身が持っていた区間記録を上回ったものの、期待されたほどの快走はできなかった。 東洋大・酒井俊幸監督は宮下に対して「1時間10分切りをさせたい」と話しているが、もう1ランク上の野望も持っている。そう、「山の神」への挑戦だ。 「山の神と呼ばれる条件はいくつかあると思うんですけど、神と呼ばれた選手たちは、いずれも往路優勝をしているんですよ。記録という点では、柏原や神野君のときとは距離が違います。目標としては、今井君の記録ですよね。宮下はそこまでのレベルではありませんが、当時はナイキ厚底シューズもありません(笑)。今井君の記録に近づけたい気持ちは持っています」 今井の2年時(05年)は往路小田原中継所が現在と同じ場所だが、函嶺洞門を迂回する現コースより20mほど短かった。そのコースを今井は1時間9分12秒で走破している。