2021年の箱根駅伝に“山の神”は降臨するのか
この記録に近づくことができれば、ライバル校の5区が区間記録(1時間10分25秒)で走ったとしても1分以上も上回る計算だ。前回の区間6位(1時間12分01秒)相当なら約2分40秒差をひっくり返すことができる。4区終了時で好位置につければ、5区での大逆転が見えてくるだろう。 宮下のライバルになりそうなのが青学大勢と東海大・西田壮志(4年)だ。青学大の5区候補は、前回区間2位(1時間10分40秒)の飯田貴之(3年)と、過去2度の5区を経験している竹石尚人(4年)になる。原晋監督は5区のタイムを「1時間 10分台」と想定。12月10日の監督トークバトルでは、「往路のどこでトップに立ちたいか?」という質問に対して、「やっぱり山(5区)です。4区までは大混戦でいくでしょう。山決戦でバラけてきます。山は走力だけでなくメンタリティも重要です。抜かれるとエネルギーを吸い取られますが、逆に抜くとパワーをもらって上っていける。走力だけでなくメンタルをポイントに置いています」と答えている。 竹石は前回左ふくらはぎを故障したことで、自ら登録メンバー入りを辞退。もう一度、箱根を走るために留年を決意して、今回は”実質5年生”となる。2年時は終盤、脚をけいれんさせながら区間5位と踏ん張り、青学大の4連覇に貢献した。しかし、3年時は区間13位と苦しんだ。ラストチャンスに3回目の挑戦がめぐってくるのだろうか。 東海大・西田は前回、故障と体調不良で区間7位に終わったが、前々回は区間2位。最後の箱根は、「誰も抜けないくらいの記録を残して、区間賞、区間新で卒業したい」と1時間9分台をノルマに考えている。 それから駒大の5区もあなどれない。過去2回の5区経験がある伊東颯汰(4年)がいるものの、大八木弘明監督は「1年生にも候補がいます」と話している。駒大の1年生は超ハイレベルで、今回は5人がエントリーされた。そのなかには東海大・両角速駅伝監督が「5区候補」として熱心に勧誘した鈴木芽吹もいる。1年生から「山の神」クラスの選手が飛び出すと、駒大の黄金時代がやってくるだろう。 前回1時間11分49秒の区間5位で好走している明大・鈴木は脚を痛めた影響で、11月21日の早大競技会10000mを途中棄権。どこまで調子を戻しているのか。神奈川大には前回5区区間6位の井手孝一(4年)、中大には同9位の畝拓夢(4年)が控えている。他にも前回10区でドラマチックな3位でゴールに飛び込んだ國學院大・殿地琢朗(3年)が山上りに意欲を見せており、法大は清家陸(3年)が「1時間11分台」という目標を立てている。11月21日の「激坂最速王決定戦2020@ターンパイク箱根」の登りの部(13.5km)で各校の5区候補を抑えて優勝した創価大・三上雄太(3年)も楽しみな存在だ。 前回4位の帝京大は2年連続で5区は大苦戦しているだけに、山で順位を上げられると初のトップ3入りが近づいてくるだろう。時代や距離が変わっても、天下の険に挑む選手たちの走りは見る者を惹きつけている。レースを占う意味でも5区を走る選手はキーマンだ。今回はどの大学からヒーローが現れるのか。1時間9分台前半のタイムを残すことができれば、「山の神」と呼ばれるような気がしている。 (文責・酒井政人/スポーツライター)